大阪府豊中市、駅から徒歩15分という決して好立地とは言えない住宅街に、あるユニークなお店が存在します。抱っこひものカバーを専門に扱う「ルカコ」です。2019年7月1日現在、この小さなお店がマーケティング業界で静かな注目を集めています。元々はインターネット販売を中心に展開していた同社ですが、事務所1階のテナントに空きが出たことをきっかけに、代表の仙田忍氏は実店舗のオープンを決意しました。
しかし、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。周囲に相談を持ちかけた際、返ってきたのは猛反対の声ばかりだったといいます。「駅から遠い住宅街の店に、抱っこひもカバーというニッチな商品だけを目当てに来る客などいるはずがない」。それが大方の見方でした。常識的に考えれば、集客が見込めない場所への出店はリスクでしかありません。それでも仙田代表は「お客様が実際に商品に触れられる場所が必要だ」という信念を曲げませんでした。
DIYでコストを圧縮、逆転の発想で生まれた「週8時間」の価値
周囲の反対を押し切り、仙田代表は驚くべき行動力で店舗作りを開始しました。なんと壁紙や木材をネットで調達し、業務終了後にたった一人で改装作業を行ったのです。約1ヶ月の期間を経て完成した「ルカコストア」の内装費は、DIYの甲斐あって30万円以内という破格の安さに抑えられました。しかし、さらに驚くべきはその営業スタイルです。お店が開くのは金曜日と土曜日のみ。しかも時間は午前11時から午後3時までのわずか4時間です。
一見すると商売っ気がないように思えるこの「週8時間営業」ですが、実は極めて合理的な戦略に基づいています。「金曜はママ友同士で、土曜は家族連れで来てもらえれば十分」と仙田代表は語ります。乳幼児を抱える母親たちが自由に動ける時間は限られており、昼間の数時間がゴールデンタイムなのです。このターゲット層のライフスタイルに完全に合致させた営業時間の設定は、無駄なコストを削ぎ落とした賢明な判断と言えるでしょう。
SNS時代の「オムニチャネル」は、小さな会社こそ武器になる
この極端に短い営業時間は、SNS全盛の現代において予期せぬブランディング効果を生み出しました。ホームページやSNSで限定的な営業日時を告知したところ、「限られた時間にしか開いていないお店」という希少性が話題を呼び、四国や九州といった遠方からもファンが訪れるようになったのです。TwitterやInstagram上では「やっとルカコに行けた!」「実物を見て選べるのが嬉しい」といった投稿が見られ、ネット上の評判がリアル店舗への集客を加速させています。
ここで注目したいキーワードが「オムニチャネル」です。これは、実店舗やECサイト、SNSなどあらゆるチャネル(経路)を連携させ、顧客にシームレスな購買体験を提供する手法のことです。従来は大企業が莫大なシステム投資をして行うものというイメージがありましたが、ルカコの事例はそれを覆しました。小さな会社であっても、工夫次第でネットとリアルを融合させ、顧客満足度を高めることができると証明したのです。
編集後記:制約を「強み」に変える経営視点
今回紹介したルカコの事例から私たちが学ぶべきは、リソースの限られた中小企業こそ、常識にとらわれない店舗運営が可能であるという事実です。ネット通販が普及し、どこでも物が買える時代だからこそ、「わざわざ行きたくなる理由」を作ることが重要になります。仙田代表は、低コストでの出店とターゲットを絞った営業時間により、リスクを最小限に抑えつつ、顧客とのエンゲージメント(結びつき)を最大化することに成功しました。
もし皆様が「実店舗を持ちたいがコストが怖い」と考えているなら、ルカコのように「倉庫の片隅」「週2日」から始めてみるのも一つの手かもしれません。完璧な店構えや毎日の営業がなくとも、そこに顧客への愛と明確なコンセプトがあれば、利益を生み出すことは十分に可能なのです。2019年、これからの小売業のあり方は、こうした身軽でしなやかなスタイルへとシフトしていくのではないでしょうか。
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