記録的な猛暑が続く日本の夏、作業現場での熱中症対策は喫緊の課題となっています。この過酷な環境に挑む作業員を支えるべく、作業服メーカーであるサンエス(広島県福山市)は、2019年6月に革新的な新製品「水冷シャツ」を投入し、大きな注目を集めているのです。これまで熱中症対策の主役であった「ファン付き作業服」に続く、新たな“冷却テクノロジー”として、この「水冷シャツ」は市場に大きな一石を投じることでしょう。
ファン付き作業服は、服に取り付けられた電動ファンで外気を取り込み、汗を蒸発させることで涼しさを得る画期的な製品です。しかし、昨年の記録的な猛暑により需要が急増した結果、新規参入メーカーも相次ぎ、市場競争は激化の一途を辿っています。そこでサンエスは、この競争を勝ち抜くための新たな「柱」として、水の気化熱を利用した冷却システムを考案しました。気化熱とは、液体が気体(蒸気)に変わる際に周囲から熱を奪う現象のことで、打ち水や汗が蒸発する時に涼しく感じるのと同じ原理を利用しています。
この水冷シャツの冷却の秘密は、裏地に張り巡らされた極細の管(くだ)にあります。直径わずか0.8ミリメートルの中空糸膜でできたこの管が、シャツの裏側にまんべんなく縫い付けられており、ウエストポーチに収納したペットボトルの水と接続されています。ポーチのコントローラーの送水スイッチを入れると、水が管を伝ってシャツをじんわりと湿らせる仕組みです。この水分が蒸発する際の気化熱の力で、体表の熱を効果的に奪い、冷却するというわけです。
サンエスが実施した実験では、ドライヤーの温風を当てても「ほとんど熱さを感じない」ほどの冷却効果が確認されています。さらに、ファン付き作業服と水冷シャツを併用した場合、気温36度、湿度50%という環境下で、腹部の表面温度が36.5度から32.6度まで低下したという驚くべき結果が得られました。これは、二つの冷却メカニズムが相乗効果を生み出し、作業員の方々を熱中症の危険から守る強力なタッグとなる可能性を示唆しています。個人的には、この「ダブル冷却」こそが、過酷な現場を変える最強のソリューションだと感じています。
水の流量は6段階に調節可能で、最大流量で流した場合、500ミリリットルの水で約2時間30分持続します。これは「建設現場の作業員が次の休憩を取るまでの時間」を想定した設計で、現場のニーズに即した実用性が追求されています。電源には単3電池2本を使用し、8時間の駆動が可能で、シャツは洗濯ネットに入れれば洗濯もできるため、清潔に繰り返し使える点も大きな利点と言えるでしょう。
水冷シャツは、半袖クルーネックや長袖Vネックなど、4つのタイプが用意されており、サイズも4種類を展開しています。色は、水に濡れても肌が透けにくい黒と濃紺の2色展開です。まずは、コントローラーとウエストポーチとのセットを1着6,500円(税別)で、アンケートへの協力が条件の800着限定で先行販売し、その回答を分析することで製品をブラッシュアップするとのこと。そして2020年からは、本格的に13,000円(同、予定)での販売を目指すという戦略です。
作業服の熱中症対策市場における新たな競争軸
熱中症対策ウエア市場の歴史を振り返ると、約15年前に空調服(東京・板橋)がファン付き作業着を開発し、サンエスと共同で製造販売を始めたことが大きな転機となりました。その後、提携は解消されたものの、現在も両社がそれぞれ市場の3割前後を占める「2強」として、この巨大な市場を牽引している状況です。繊維業界の推定によれば、ファン付き作業着の市場規模は、2017年の60億~70億円から2018年には80億円強に拡大し、2019年には90億~100億円に達すると予測されており、その成長は目覚ましいものがあります。
深刻な人手不足に悩む建設業界などでは、作業員を集めるための“目玉”として、ファン付き作業服を大量購入するケースも散見されるようになりました。しかし、このファン付き作業服にも課題があります。それは、外の空気を取り込む構造上、ホコリっぽい場所では使いにくく、溶接現場などでは火の粉を吸い込む危険性があるということです。サンエスが水冷シャツを考案したのは、まさにこうした「ファン付き作業服が苦手とする現場」のニーズに応えるためでしょう。
さらに、同社理事役員の藤田明久氏は、「風の効果を享受できるサイクリング用ウエアなどにも最適」と語るように、水冷シャツは今後、カジュアルウエアへの展開においても、空気が入って服が膨らんでしまうファン付きよりも有利であるという見解を示しています。市場の競争は激しいですが、「スピード感と企画力で勝ち抜いていく」という力強い言葉からは、新製品への並々ならぬ自信がうかがえます。サンエスは1949年に設立された歴史ある企業で、繊維製品と電子機器・部品の製造販売を事業の2本柱としており、2019年3月期の売上高は228億円、2020年3月期は230億円を目指すとしています。この「水冷シャツ」が、同社の成長をさらに後押しすることは間違いないでしょう。
発売されたばかりのこの水冷シャツに対し、SNSでは「溶接現場で使えるのは革命的!」「ファン付きが使えない場所での朗報だ」といった現場の切実な声や、「ファンと併用したら最強では?」といった冷却効果への期待の声が上がっています。また、「水冷ってどういう仕組み?気になる」という技術的な興味を示す層も多く、その革新的なコンセプトは、読者の関心を強く惹きつけているようです。熱中症対策ウエア市場は、この水冷シャツの登場で、今後さらに多様化・進化していくことが期待されます。
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