2019年6月20日現在、メジャーリーグ1年目を送っているシアトル・マリナーズの菊池雄星投手が、現在苦戦を強いられています。この状況は、日本の野球でエリートとして育ってきた選手の「育ちの良さ」が、かえってメジャーの舞台でマイナスに作用しているのではないか、と私たちは分析しています。アメリカン・リーグを中心としたメジャーの打線は、1番から9番まで誰もが強いスイングを持ち、一発の長打力を秘めているのが特徴です。相手打者は、結果を恐れずに「やるかやられるか」と割り切って、全力でバットを振ってくるのが、ベースボールの真骨頂と言えるでしょう。
このようなメジャーリーガーたちを抑えるためには、投手側も持ち前の制球力を活かしつつ、思い切りの良いアグレッシブな投球を展開する必要があると考えます。具体的には、打順に関わらず内角を鋭く攻めたり、高低を大胆に使い分けたりと、ひたすらに闘志をむき出しにして、がむしゃらに打者に向かっていかなければならないのです。しかし、日本の投手、特に日本での高いレベルで実績を積んだ選手ほど、「丁寧に、丁寧に、低めのストライクゾーンで勝負しよう」という意識が、つい働きがちになる傾向が見受けられます。
特に下位打線を迎えた際には、日本で徹底的に仕込まれてきた「習い性」、つまり長年の習慣や癖が色濃く出てしまい、まとまりすぎてしまう投球になりやすいのです。もともと日本の投手はコントロールが良い選手が多く、その分、打者にとっては思い切って踏み込みやすいという側面があります。さらに、球筋が綺麗なフォーシーム(ストレート)を投げる投手は、かえってメジャーの強力な打者にとっては格好の餌食となりかねない状況なのです。ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手やロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手といった、メジャーで実績のある選手でさえ、痛打を浴びる時は、まさにこの「丁寧すぎる投球」という落とし穴に陥った時であると指摘されています。
この「丁寧に」という意識が、メジャーリーグの舞台では命取りになりかねないことは、菊池投手自身も重々承知しているはずです。それでも、ついつい低めにボールを集めようという意識が働いてしまうのは、日本における少年野球から高校野球に至る育成システムがいかに優れており、レベルが高いかを物語っていると言えるでしょう。メジャーに挑戦するような選手は、日本の野球教育における「エリート中のエリート」であり、「球は低く、丁寧に」という指導が、文字通り体に染みついているのです。このように、日本の野球指導は確かに世界に誇れるものです。しかし、その「日本仕込み」の長所が、メジャーという異文化の環境下では、必ずしも良い結果を生むとは限らないという現実を、私たちは受け止めなければなりません。
一方で、日本の野球教育が良い面も持っていることも確かです。例えば、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は、一度見送ったボール球には二度と手を出さないという選球眼の良さを持っています。ボール球を見極め、自分の得意なコースに甘い球が来るまで待つという「我慢強さ」は、まさに日本の野球選手ならではの特長です。しかし残念ながら、メジャーではこうした野球エリートたちの長所が、全て良い方向に作用するとは限らないのが実情なのです。野球評論家の間では、大谷選手がメジャー1年目のスプリングトレーニングに参加していた2018年春に、「低めに投げるな。打つときは低めを打て」と助言されたエピソードが知られています。
これは、日本の野球で常識とされてきたセオリーを捨て去り、アメリカのベースボールに順応せよという強いメッセージが込められています。ベースボールと日本の野球は、同じ球技でありながら、これほどまでに求められる「常識」や「プレースタイル」が異なっているということなのです。菊池投手がメジャーでさらなる飛躍を遂げるためには、これまで培ってきた技術の土台は大切にしつつも、「丁寧に低め」という日本の常識から一度脱却し、メジャーの打者に真っ向からぶつかっていくアグレッシブな投球スタイルを確立することが極めて重要になるでしょう。
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