2019年11月12日に開催された大相撲九州場所の3日目、会場は手に汗握る熱気に包まれました。注目の大関陥落から再起をかける栃ノ心が、ついに待望の初白星を挙げています。初日、2日目と得意の「左上手(ひだりじょうず)」を引きながらも連敗を喫していただけに、この一勝が持つ意味は非常に大きいと言えるでしょう。
対戦相手は、相撲巧者として知られる遠藤でした。この日の取組でも、遠藤の巧妙な立ち回りに苦戦を強いられます。栃ノ心は生命線である左上手を封じられ、逆に相手に前まわしを許すという、客観的に見ても厳しい劣勢に立たされました。土俵際まで追い込まれる展開に、観客席からは悲鳴に近い声援が飛び交います。
絶体絶命のピンチを救ったのは、やはり彼が持つ規格外の怪力でした。なりふり構わず動き続ける泥臭い姿勢を見せ、最後は相手を力任せに振り回すような執念の「はたき込み」で勝利を掴み取っています。SNS上でも「これぞ重戦車」「内容はどうあれ勝てば官軍」といった、彼の底力に驚嘆するファンの声が相次いで投稿されました。
怪力の裏に隠れた苦悩と、大関復帰への険しい道のり
取組後の取材で、栃ノ心は「何とか勝てた」と語り、安堵の表情を浮かべました。しかし、本来の形である「まわしを引いてから攻める相撲」ができなかった自分自身に対しては、納得がいかない様子も見せています。満面の笑みとはいかないまでも、勝利という最高の結果が、焦る心に一時的な平穏をもたらしたのは間違いありません。
今の彼は、右膝をはじめとする全身の古傷と戦いながら土俵に上がっています。本場所前には十分な稽古を積めたという自負があるからこそ、思うようにいかない現状に「もっとできるはずなのに」と、勝負の世界の厳しさを痛感しているようです。プロの執念が言葉の端々に滲んでおり、見ている側の胸を熱くさせます。
藤島審判長は、この荒削りな内容について「栃ノ心にしか取れない相撲」と評し、そのパワーが健在であることをポジティブに捉えています。再入幕や再昇進を目指す際、技術を超えた「元気の良さ」は重要な指標となるのです。大関返り咲きに必要な2桁勝利への道は決して平坦ではありませんが、この怪力で場所の流れを強引に変えてくれることを期待しましょう。
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