2020年の東京五輪開催を目前に控え、日本の航空業界では旅客需要の爆発的な増加を見込んだ激しいシェア争いが幕を開けています。この大波を前に、一歩先んじた動きを見せたのが格安航空会社(LCC)の雄、ピーチ・アビエーションです。
同社は2019年11月1日付でバニラ・エアとの経営統合を無事に完了させました。これにより、これまで首位を走っていたジェットスター・ジャパンを抜き去り、名実ともに国内LCC最大手の座へと登り詰めたのです。
SNS上では「バニラの黄色い機体が見られなくなるのは寂しいけれど、ピーチのネットワーク拡大には期待しかない」「関空と成田が繋がるのは利用者として胸熱」といった、統合を歓迎する声と別れを惜しむ声が入り混じっています。
「心の統合」を最優先した異例のマネジメント
航空会社の統合といえば、過去にはシステムトラブルや組織の不和で失速した事例も少なくありません。しかし、新生ピーチを率いる井上慎一CEOが何より重んじたのは、数字上の計算ではなく「社員の心の融和」でした。
井上氏と森健明副社長は、統合プロセスが進むなかでバニラの拠点である成田へ足繁く通いました。2019年3月まで継続された「ランチ会」では、現場のパイロットや客室乗務員と同じ機内食を囲み、膝を突き合わせて不安や期待に耳を傾けたのです。
こうした泥臭いまでのコミュニケーションこそが、組織の壁を取り払う鍵となりました。その結果、懸念されていたパイロットの離職もほとんど発生せず、極めてスムーズな合流を実現した点は、経営戦略として非常に高く評価されるべきでしょう。
ドラマ「おっさんずラブ」で挑む首都圏の知名度向上
関西を地盤とするピーチにとって、成田空港を中心とした首都圏市場の開拓は大きな挑戦です。そこで同社が繰り出した奇策が、人気地上波ドラマとのタイアップという異色のプロモーションでした。
2019年11月現在放送中のテレビ朝日系ドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』では、ピーチをモデルにした航空会社が舞台となっています。広告費を削るLCCがCMではなく、作品への全面協力でブランド浸透を図る手法は実にスマートです。
このドラマはアジア圏でも配信されるため、将来的な海外展開を見据えた布石にもなっています。エンタメの力を借りて「親しみやすさ」を演出する戦略は、堅苦しい従来の航空会社のイメージを鮮やかに塗り替えていくに違いありません。
最新鋭機「A321LR」が切り拓くアジアの頂点
新生ピーチの真の狙いは、国内の枠を超えた「アジアのリーディングLCC」です。その切り札となるのが、2020年度に導入予定の最新鋭機「A321LR(ロングレンジ)」という機体です。
ここで専門用語を解説すると、航続距離とは「燃料を満載して着陸せずに飛べる距離」を指します。従来のLCC機体は約4時間の短距離が限界でしたが、この最新鋭機なら7時間から9時間という「中距離路線」への参入が可能になります。
現在、ピーチは2020年度に売上高1500億円という野心的な目標を掲げています。パイロット不足という世界的な課題は残りますが、現場の声を取り入れた「中距離プロジェクト」の熱気を見る限り、その飛躍は現実味を帯びています。
個人的な見解を述べれば、この統合は単なる規模の拡大ではなく、日本流の「おもてなし」と「効率性」を融合させる壮大な実験です。空の旅をもっと身近にする彼らの挑戦が、私たちの移動の常識をどう変えてくれるのか楽しみでなりません。
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