歴史ある愛媛の名湯・道後温泉に、テクノロジーの風が吹き抜けようとしています。2019年12月05日、老舗旅館として知られる「大和屋本店」において、最新の顔認証技術を駆使した客室のキーレス化実証実験が幕を開けました。このプロジェクトは、地元のデジタルピア社と東京のスタートアップ企業が手を取り合い、伝統的なおもてなしの空間に利便性という新たな価値を添えるために企画されたものです。
温泉街の旅館でこうした最先端の顔認証システムが導入される事例は、全国的に見ても極めて珍しい試みと言えるでしょう。これまでの宿泊体験では、外出時や入浴の際に重い鍵を持ち歩いたり、フロントへ預けたりする手間が避けられませんでした。今回の実験は、そうした日常の「煩わしさ」を解消し、宿泊客が心からリラックスできる環境を整えることを目的としています。
SNS上では「浴衣で手ぶら歩きができるのは嬉しい」「旅館の鍵は重くて紛失が怖かったから助かる」といった、利便性の向上を歓迎するポジティブな声が多く寄せられています。その一方で「温泉宿の情緒が損なわれないか」という不安や、プライバシーへの関心も高いようです。こうしたハイテクと情緒のバランスをどう取るかが、今後の本格導入に向けた大きな鍵となるのではないでしょうか。
世界最高水準の技術が支える「顔が鍵になる」仕組み
今回のシステムには、世界的に評価の高いNECの顔認証技術が採用されています。顔認証とは、人間の目や鼻、口といったパーツの配置情報をデジタルデータとして解析し、本人を特定する生体認証の一種です。これに「スマートロック」と呼ばれる入退室管理システムを組み合わせることで、ドア横のカメラの前に立つだけで瞬時に解錠される魔法のような体験が可能になりました。
宿泊客は、チェックイン時に専用端末でご自身の顔情報を登録するだけで準備が整います。客室への入室はもちろんのこと、驚くべきことにチェックアウトの手続きまでもがフロントでの顔認証のみで完結する仕組みです。このスムーズな流れは、デジタルピアの旅館向けソフトと、フォトシンス社や日本フネン社が持つ高度な技術力が融合したことで実現しました。
大和屋本店の奥村敏仁社長は、くつろぎの場である温泉旅館において、この技術がお客様にどう受け入れられるかを慎重に見極めたいと考えておられます。もし本格的な導入が進めば、鍵の管理に割いていた従業員の労力を、より質の高い接客サービスへ充てることができるでしょう。効率化によって生まれる余裕こそが、日本が誇る「おもてなし」をさらに深化させる原動力になると確信しています。
今回の実験は2020年02月27日まで、1日1室限定という貴重な機会として提供されます。アンケートへの協力などを条件に通常より手頃な価格で宿泊できるため、一足先に未来の旅館体験を味わいたい方には絶好のチャンスです。今後は、館内の売店やレストランでのキャッシュレス決済との連携も視野に入っており、道後温泉全体がスマートな観光地へと進化していくことが期待されます。
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