台湾の経済界を牽引してきた「カリスマ経営者」が、再び政治の表舞台で激しい火花を散らしています。鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者である郭台銘(テリー・ゴウ)氏が、2020年1月11日に投開票を控えた総統選挙および立法委員(国会議員)選挙に向けて、異例とも言える政治工作を本格化させているのです。一度は総統選への出馬を断念した同氏ですが、その視線はすでに「次」の権力構造を見据えているようです。
郭台銘氏は、米アップルのiPhone生産を一手に引き受ける世界最大のEMS(電子機器受託製造サービス)企業、鴻海を一代で築き上げた人物です。2019年4月に総統選への挑戦を表明した際は世界中に衝撃が走りましたが、同年9月に突如として不出馬を宣言しました。しかし、2019年12月23日に地元メディアの取材に応じた際、当時の決断を「後悔している」と漏らしたことで、再び政界に緊張が走っています。
現在の台湾政界は、独立志向を持つ与党・民主進歩党(民進党)と、中国との融和を重視する最大野党・国民党の二大政党が激しく対立する構図です。この強固な壁を打ち破るべく、郭氏が接近しているのが「第三極」と呼ばれる勢力です。中でも台北市長の柯文哲氏が率いる「台湾民衆党」は、既存の政治に飽きた若者層から絶大な支持を得ており、今回の選挙でキャスティングボートを握る可能性があります。
郭氏は自らの政治的影響力を誇示するかのように、複数の政党に側近を送り込むという驚くべき戦略を繰り出しています。台湾民衆党の比例代表名簿には鴻海幹部を、さらに別の小政党である親民党にも自身の側近を配置しました。このように複数のルートから議会へ食い込もうとする手法は、ビジネスの世界で培った「リスク分散」と「利益最大化」の現れであり、まさに政治家というよりは戦略的な投資家の動きと言えるでしょう。
2024年を見据えた「郭家軍」の野望とSNSの視線
こうした郭氏の動きに対し、SNS上では「ビジネスの手法を政治に持ち込みすぎだ」という批判がある一方で、「停滞した二大政党制を壊してくれるのではないか」という期待の声も渦巻いています。柯文哲氏の陣営関係者が「トランプ米大統領のような激しい駆け引きだ」と困惑するほど、郭氏の立ち回りは従来の政治常識を覆すものです。彼の目的は、単なる議席確保ではなく、自身の息がかかった「郭家軍」を形成することにあります。
編集者としての私見ですが、郭氏のこうした行動は、台湾の産業界が中国とアメリカの間で激しい「板挟み」に遭っている現状の裏返しだと感じます。経営者として国際情勢の厳しさを知る彼だからこそ、既存の枠組みでは台湾を守れないという危機感があるのでしょう。しかし、複数の政党にまたがって影響力を行使するやり方は、有権者にとって「誰を信じればいいのか」という不透明さを生むリスクも孕んでいるのではないでしょうか。
今回の議会選応援は、実質的に2024年の次々回総統選に向けた壮大な「下準備」であることは間違いありません。2019年12月現在、郭氏は次なる挑戦について「人々に求められれば、私は常にここにいる」と、含みを持たせた表現で意欲を隠していません。経営の神様が次に描くビジョンが、台湾の民主主義をアップデートするのか、それとも混乱を招くのか。2020年1月11日の審判の日、その一歩が刻まれます。
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