私たちは日々、さまざまな出来事を経験して記憶として蓄積していますが、ふとした瞬間に昔の出来事を鮮明に思い出すことがありますよね。理化学研究所のトーマス・マックヒュー氏が率いる研究チームは、脳が過去の記憶を呼び起こす際の驚くべきメカニズムの一端を明らかにいたしました。この発表は、私たちが日常的に行っている「思い出す」という行為の裏側で、脳がどのように連携しているのかを示す大変興味深い成果です。ネット上でも「記憶の神秘に一歩近づいた」「将来の医療に役立ちそう」と大きな反響を呼んでいます。
研究チームはマウスを用いた実験を行い、特定の部屋で電気ショックを与えて恐怖の記憶を植え付けました。その後、2020年01月09日の発表までに、記憶形成から1日後と1カ月後という異なるタイミングで再び同じ部屋に戻し、その際の脳の動きを観察したそうです。すると、1カ月が経過した「古い記憶」を思い出すときだけ、脳の離れた場所にある「海馬(かいば)」と「大脳皮質(だいのうひしつ)」という2つの領域で、脳波がピタリと一致して同期する現象が確認されました。
ここで登場する「海馬」とは、脳の中で新しい記憶を一時的に保管する、いわばデータの仮置き場のような場所です。一方で「大脳皮質」は、五感や思考を司り、長期間にわたって記憶を保存する巨大なハードディスクの役割を果たしています。これまでは、記憶が作られてから2週間ほど経つと大脳皮質に記憶の痕跡が移ることは知られていましたが、遠く離れた2つの領域がどのように情報をやり取りして古い記憶を蘇らせるのかは、深い謎に包まれたままでした。
今回の実験では、集まった膨大な脳波のデータを人工知能(AI)の「機械学習」という技術で解析しています。この技術は、コンピューターに大量のデータを読み込ませてパターンを自動で学習させるシステムです。解析の結果、脳波のパターンを見るだけで、マウスが思い出しているのが「新しい記憶」か「古い記憶」かを、約7割という高い確率で見分けることに成功しました。脳の電気信号を読み取るだけで、その記憶の鮮度が判別できるのは驚きを隠せません。
さらに興味深いことに、大脳皮質の脳波のリズムに合わせるようにして、海馬にある複数の神経細胞が同時に活動を始める現象も突き止められました。しかも、近くにある細胞同士よりも、あえて遠く離れた場所にある細胞同士の方が同時に反応しやすいという意外な傾向も見つかっています。これらのデータから、古い記憶を呼び出す際には、大脳皮質側から送られた信号が合図となり、海馬に眠る記憶を優しく呼び起こすサポートをしている可能性が濃厚となりました。
これほど緻密なネットワークが脳内で働いているという事実は、人間の脳の神秘性と可能性を改めて実感させてくれます。今回の発見は、単なる生物学の進歩にとどまらず、将来的には認知症などの記憶障害に対する新しい治療アプローチや、効率的な学習法の開発にも繋がる重要な一歩になるのではないでしょうか。今後は海馬と大脳皮質でどのように記憶が保管されているのか、さらに詳細な調査が進められる予定とのことで、今後の続報からも目が離せません。
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