近年、企業経営の新たな常識として「オープンイノベーション」という言葉が注目を集めています。これは自社だけでなく、外部の優れた技術やアイデアを取り入れて革新的な価値を生み出す仕組みのことです。組織の壁を越えた知識の融合は、従業員の創造性を大きく刺激する魅力的なアプローチとして期待されています。
しかし、この美しい筋書き通りに物事を進めるのは簡単ではありません。外部の知識を実際の製品開発や企業業績に結びつけるプロセスには、極めて複雑なメカニズムが存在します。ネット上でも「異業種のノウハウを取り入れるのは難しい」「口で言うほど簡単ではない」といった共感の声が多数上がっています。
特に難しいのが、連携する「相手選び」と知識の「探索」です。取引先や大学、研究機関など候補は多岐にわたり、相手がどのような専門性を持っているかを正確に見極めるのは至難の業と言えます。さらに、自社の従来の領域から一歩踏み出すためには、これまでにない広い視野で新天地を開拓していく姿勢が求められるでしょう。
内閣府の知的財産戦略本部が2019年6月にまとめた報告書でも、重要性の認識は高まっているものの、社会的なインパクトを残した実例はまだ少ないと指摘されています。既存事業の隣接エリアにとどまらず、未知の領域へ挑戦する必要性が訴えられていますが、探索に時間やコストをかけすぎれば現場の負担になるため、絶妙な塩梅が要求されます。
その中で、大学は重要な連携パートナー候補です。ですが文部科学省の調査によると、国内の産学共同研究の平均額は200万円台前半であり、その8割以上が300万円未満という小規模なものにとどまっています。10年前と比較してもこの金額は大きく伸びておらず、現場からは「若手研究者を1人も雇えない」という悲痛な声も漏れてきます。
こうした現状に対し、SNSでは「日本の産学連携への投資額が少なすぎる」「これでは世界に勝てない」といった危機感を露わにする意見が飛び交っています。しかし見方を変えれば、多くの企業はまだ大規模な成果を期待しているのではなく、最新の知見を探る「探索活動」の場として大学を活用している段階なのだと解釈できます。
さらに、外部知識の活用を阻む壁は社内にも存在します。せっかく優れた知見を獲得しても、受け手側にそれを理解して応用する「吸収能力」が不足していれば宝の持ち腐れです。また、身内の知識を過信して外部の知見を低く見積もってしまったり、新規事業が既存の自社事業と衝突することを恐れたりする心理的な抵抗も世界共通の課題です。
外部の知見を形にするためには、お互いの立場を尊重し、共通のゴールへ向けてベストな方法を共有し合う「知識マネジメント」の意識が不可欠となります。大上段に構えて大改革を行わなくても、日々の対話や小さなセミナーの場から、有効に知識を働かせる機会は十分に作り出せるはずです。
企業の成長には外部組織との連携が不可欠ですが、ただ知識を集めるだけでは意味がありません。自社がその知識をどう消化し、どう現場に定着させるかという「社内の仕組みづくり」こそが、オープンイノベーションの成否を分ける真の分岐点になるのではないでしょうか。
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