静岡県の経済界はいま、深刻な人手不足や後継者不足、中心市街地の衰退といった数々の大きな課題に直面しています。こうした状況の中で、地域の経済を支える商工会議所は一体どのような役割を果たすべきなのでしょうか。静岡県商工会議所連合会の会長を務める酒井公夫氏(静岡鉄道会長)に、現在の景気動向や今後の見通し、そして地元の企業が今すぐ取り組むべき具体的な生存戦略について、2020年01月15日時点の熱い胸の内を詳しく伺いました。
現在の静岡経済について、酒井会長は厳しい視線を向けています。米中貿易摩擦による製造業の落ち込みに加え、2019年10月01日の消費税率引き上げが非製造業にも影を落としているようです。台風の影響が色濃かった2019年10月を経て、11月以降も景気の減速感は続いており、消費者の購買意欲は想定以上に冷え込んでいます。政府のキャッシュレス決済還元策は一定の成果を上げたものの、消費者の負担感の根本にある社会保障改革に切り込まない姿勢には、強い疑問を呈していました。
オリンピックイヤーである2020年の展望についても、手放しでは喜べない状況が予測されるでしょう。米中関係の改善に一縷の望みを託すものの、東京五輪が静岡にもたらす経済効果は限定的であると酒井会長は指摘します。それどころか、五輪をきっかけに首都圏と地方の格差がさらに広がることへの強い危機感を募らせていました。なぜなら、働き方改革で先行する東京に遅れをとれば、地方からさらに人が離れてしまうという現実があるからです。
学生が求める「理想の働き方」と副業人材の爆発的な需要
SNS上でも「地方の中小企業こそ働き方を変えないと本当に生き残れない」といった共感の声が多数上がっています。人手不足の本質について、酒井会長は労働環境の変化に敏感になる必要性を訴えました。その成功例が、静岡商工会議所が立ち上げた「地域人事部」という試みです。これは各企業が個別に持つ人事機能を地域全体でシェアし、共同で採用や育成を行う仕組みのことです。このマッチング事業で副業人材を16人募集したところ、なんと約900人もの応募が殺到しました。
「地元の企業には魅力がない」と語る学生たちの本音に、経営者は耳を傾けなければなりません。いまの若者が重視しているのは、企業の知名度よりも「多様な働き方ができるかどうか」です。柔軟な制度設計や副業への対応といった選択肢の多さが、これからの採用力を大きく左右するでしょう。明確なビジョンを掲げ、外部の専門人材を温かく受け入れる度量さえあれば、地方であっても優秀な人材は自ずと集まってくるに違いありません。
経営者の「気付き」が会社を救う!この指止まれ方式のデジタル化
一方で、中小企業のIT化(情報技術の活用による業務効率化)や事業承継が遅れている現状もあります。酒井会長はこの問題に対し、経営者自身の「気付き」が何よりも重要であると断言していました。周囲がどれだけ周囲から変化を促しても、トップが自覚を持たなければ組織は変わりません。そこで、商工会議所の経営指導員が地道に企業を訪問し、変化の兆しを見せた経営者を絶対に見逃さない「この指止まれ方式」でのアプローチが大きな成果を生む鍵となります。
編集部としても、今回の酒井会長の提言には大いに賛同いたします。人手不足を単なる「少子化のせい」にするのではなく、自社の働き方の古さに原因があると気づけるかどうかが、企業の命運を分けるはずです。地方こそ、従来の固定観念を捨てて多様な人材を受け入れる柔軟性を持つべきでしょう。商工会議所という地域の伴走者を巻き込みながら、経営者が一歩を踏み出すことで、静岡の地場産業はより一層魅力的な姿へと生まれ変わるはずです。
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