デジタル社会の安全を守るセキュリティ大手のトレンドマイクロが、目覚ましい業績を叩き出しました。2019年12月期の連結決算において、本業の儲けを示す営業利益が前の期と比べて6%ほど増加し、380億円強になった見通しです。これは2期ぶりに過去最高益を塗り替える快挙であり、従来の予想を上回る着地となります。ネット上では「サイバー攻撃が増える現代、やはり防衛関連は強い」「クラウド移行が進む中で必然の結果」といった納得の声が相次いでいます。
今回の好業績を強力に後押ししたのが、企業の間で急速に普及している「クラウド型セキュリティサービス」の需要拡大です。クラウドとは、自社で高価なサーバーなどの設備を抱えずに、インターネット経由で必要なシステムを利用する仕組みを指します。システムを自前で構築するよりも運用のコストを大幅に削減できるため、多くの企業がこぞって導入を進めました。この時代の大きな変化を的確に捉えたことが、日本国内での販売好調に繋がっています。
さらに個人向け市場では、最先端の人工知能(AI)を搭載したウイルス対策ソフトが、スマートフォンやタブレットといったモバイル端末向けに大きくシェアを伸ばしました。巧妙化する現代のネット脅威に対し、最先端技術で対抗する姿勢がユーザーの安心感を生んでいるのでしょう。これだけ身近なデバイスに危険が潜む時代だからこそ、AIによるリアルタイムの保護機能が多くの人々に選ばれるのは当然の流れと言えます。
緊迫する世界情勢と広がるIoT需要
売上高の6割を占める海外市場に目を向けると、特にアジアや中近東での伸びが顕著となっています。中東情勢の緊迫化に伴ってサイバー攻撃の危険性が高まっており、政府機関からの防衛需要が急増したためです。また欧州では、厳格なデータ管理が求められる金融機関や製薬業界を中心にサービスの利用が拡大しました。あらゆるモノがインターネットに接続される「IoT(モノのインターネット)」の技術が工場の生産ラインに導入され、製造業からの引き合いも目立っています。
一方で、地域ごとの課題も浮き彫りになりました。北米市場においては、大企業向けに展開していた侵入防御システムの更新が一通り落ち着いたことで、ハードウェア機器の販売が落ち込んでいます。新規の大型案件が一段落した反動が響いた形ですが、これは一時的な調整局面と捉えるべきでしょう。こうした一部地域の苦戦を、他の地域やサービスがしっかりとカバーする事業ポートフォリオの強さこそが、同社の真の強みだと感じます。
収益性の高さを示す売上高営業利益率は、前の期の約22%から約23%へと改善する見込みです。世界的な販売増加に加え、為替レートが想定よりも円高に推移したことが有利に働きました。同社は全従業員の9割近くが海外で活躍しているため、円高が進むと日本円に換算した際の人件費が目減りします。世界に分散した人員配置が、予期せぬ為替の変動においてプラスのコスト削減効果をもたらした形です。
株式市場の評価と今後の成長シナリオ
2020年12月期も、世界的なサイバー攻撃の増加を背景に、2期連続で営業最高益を更新する公算が大きいと予想されます。しかし、これほど順調な業績でありながら、株式市場からの評価はまだ発展途上と言わざるを得ません。2020年01月07日の終値は前日比1%高の5630円に留まり、2019年01月28日に記録した高値と比較すると1割ほど安い水準です。同日に上場来高値を更新した同業のオービックと比べても、やや寂しい値動きとなっています。
投資家の判断材料となる予想PER(株価収益率)は27倍台であり、オービックの42倍台を下回っています。PERとは、企業の利益に対して株価が何倍まで買われているかを示す指標で、今後の成長への期待度を表すものです。市場が慎重姿勢を崩さない理由は、やはり北米市場の落ち込みが今後も尾を引くのではないかという懸念にあります。ですが、サイバー空間の脅威が消えることはなく、セキュリティの重要性は一段と高まる一方でしょう。
私は、現在の株価水準は同社の将来性を十分に反映していないと考えます。なぜなら、一時的なハードウェアの需要一巡に惑わされることなく、企業向け・個人向けともに盤石な基盤を築いているからです。今期以降も市場の不安を吹き飛ばすような確実な増益基調を示すことができれば、いずれ株価の再評価が進むのは間違いありません。情報セキュリティの絶対的リーダーとして、同社がどのような成長シナリオを描くのか注目が集まります。
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