サッカー界の歴史にその名を刻む伝説のゴールキーパー、オリバー・カーン氏のエピソードをご存じでしょうか。現役時代の彼は、まさに「鬼」のような形相でゴールを守り、味方さえも震え上がらせるほどの圧倒的な存在感を放っていました。試合に敗北した翌日には、自分が動けなくなるまで猛特訓を課すほど、勝利に対して異常なまでの執念を燃やしていたのです。
そんな彼がストレスを解消するために愛聴していたのが、映画『パピヨン』でした。無実の罪で過酷な孤島の刑務所に収監されながらも、不屈の闘志で脱獄を果たした男の実話を描いた名作です。カーン氏は、絶望的な状況から自由を勝ち取った主人公の姿に「なせばなる」という自身の信念を重ね合わせ、孤独な戦いを続ける活力にしていたのでしょう。
そんな元ドイツ代表の守護神が、2020年1月22日、古巣であるバイエルン・ミュンヘンの取締役に就任いたしました。かつて同僚のフランク・リベリー氏に靴へ冷水を入れられる悪戯をされても「GKの扱いなどそんなものだ」と豪快に笑い飛ばしていた彼も、50歳を過ぎてすっかり丸みを帯びた紳士へと変貌を遂げています。
SNS上では「あの恐怖のカーンがスーツを着て微笑んでいるのが新鮮すぎる」「あの闘争心がビジネスの世界でどう活かされるのか楽しみだ」といった驚きと期待の声が溢れていました。ピッチ上で殺人光線のような視線を飛ばしていた人物が、今や記者会見でユーモアを交えて人々を笑わせているのですから、ファンが驚くのも無理はありません。
引退後の彼は、すぐにクラブの管理職に就く道を選びませんでした。あえて茨の道を進み、大学で経営学を修め、ゴールキーパー用品のマーケティング会社を起業したのです。さらに興味深いのは、2部リーグの監督に教えを請うた点でしょう。華やかな実績に溺れず、現場の叩き上げから組織の動かし方を学ぶ謙虚さこそが、彼の真の強さです。
今後はカール・ハインツ・ルンメニゲCEO(最高経営責任者:企業の業務執行を統括する最高責任者のこと)のもとで、2年間の「経営修行」に励む予定です。これはスター選手が引退後にクラブの重鎮となる、バイエルンの伝統的な育成方針に基づいています。ベッケンバウアー氏らの系譜を継ぐ、新たなリーダーの誕生に胸が躍ります。
私は、カーン氏のこの柔軟なキャリア形成こそ、現代のビジネスパーソンが見習うべき究極の姿だと確信しています。過去の栄光を一度リセットし、泥臭く学び直す姿勢は容易に真似できるものではありません。「会議室で暴れたりしない」と茶目っ気たっぷりに語る彼が、サッカー界に新たな風を吹き込むのは間違いないでしょう。
コメント