訪日外国人の増加に伴い、日本の街中でも「ハラル」や「ムスリム・フレンドリー」という言葉を目にする機会が格段に増えています。しかし、私たちはその本質をどこまで理解できているでしょうか。実はハラルとは、イスラム教徒(ムスリム)の生活全般に関わる重要な考え方なのです。SNS上でも「食品だけでなく、化粧品や日用品まで関係しているとは知らなかった」と、その奥深さに驚く声が多数寄せられています。そこで今回は、ハラルを意識したライフスタイルを実際に体験し、その実態に迫ってみました。
そもそも「ハラル」とはどのような意味なのでしょうか。ハラル認証を行う宗教法人日本イスラーム文化センターのクレイシ・ハールーン事務局長によると、ハラルとはアラビア語で「合法なもの」「許されたもの」を意味します。聖典コーランで禁じられている豚肉やアルコールなどを排除したものが対象です。同センターはマレーシアなどと同じ厳格な基準で審査を行っており、2020年01月11日現在、国内の約130社がこの認証を取得して食や美の安全を支えています。
では、実際に日本でハラルに基づいた生活を送るとどうなるのでしょうか。私たちが普段何気なく使っている化粧水にはアルコールが含まれ、シャンプーにはコラーゲンが配合されていることがよくあります。この「コラーゲン」は動物由来である場合、豚が使われている可能性もあるため、ムスリムの方にとっては注意が必要な成分なのです。メーカーに確認したところ、幸いにも魚由来だと判明しましたが、成分表示だけを見て安全性を瞬時に判断するのは非常に難しいのが現状と言えます。
こうしたハラル認証の生活用品を揃えようと試みましたが、記者の生活圏にあるドラッグストアでは見つけることができませんでした。観光地周辺では実験的な売り場も登場していますが、現状はインターネット検索でのお取り寄せが主流のようです。実際に取り寄せたナチュレモフィードのシャンプーは、植物由来の優しい素材で作られていました。泡立ちは控えめですが、乾かすと天然の心地よい花の香りが漂います。リンスなしでも髪がきしまず、自然派ケアとしての質の高さに感動しました。
また、石田香粧のハラル認証クレンジングは、製造ラインを通常製品と完全に分けて作られています。通常の植物油抽出に使われるアルコールを混入させないための徹底したこだわりですが、その設備投資の分、価格は少し高めです。実際の洗浄力はマイルドで、しっかりメイクを落とすには数回洗う必要がありましたが、洗い上がりは非常にしっとりとしていました。このように、ハラル製品は肌への優しさを追求する一般の消費者にとっても、非常に魅力的な選択肢になり得ると感じます。
さらに見落としがちなのが「歯ブラシ」です。一般的には化学繊維が主流ですが、大手メーカーのライオンによると、一部の商品に豚毛が使われているケースもあるそうです。イスラム圏では、お祈りの前に木の棒を使った伝統的な歯ブラシで口内を清める習慣があります。これを試してみたところ、削った木から塩気のある味が広がり、唾液が溢れてきました。唾液の自然な洗浄作用を活かした先人の知恵には脱帽です。利便性を補うために現代の歯ブラシと併用するのが賢い方法でしょう。
海外に目を向けると、人口の約90%がムスリムであるインドネシアでは、法律で医薬品や化粧品へのハラル認証が義務化されました。日本政府観光局の石崎雄久マネージャーは、今後より厳格な対応を求める旅行者が増えると分析しています。一方で、イスラム思想研究者の飯山陽さんは「ムスリムの捉え方は千差万別であり、認証を過信しすぎないことも大切」と指摘します。認証機関によって基準が異なる上に、最終的な信仰の解釈は個人の判断に委ねられているからです。
こうした中、玄冶堂の身体用石鹸は、パッケージにハラルマークを載せるだけでなく、豚由来原料とアルコールが不使用であることを日本語と英語で明記しています。代表取締役のモシュケリ香織さんが語るように、専門的な成分表示だけでは不親切であり、相手が本当に知りたい情報を分かりやすく開示することこそが重要です。こうした歩み寄りこそが、これからの日本に求められる「真のおもてなし」の姿ではないでしょうか。
2019年に発表された国際的な調査によると、日本は「ムスリムが旅行しやすい非イスラム国ランキング」で、英国や台湾と並び見事に世界3位に輝きました。治安の良さや信仰の自由といった環境面が高く評価された結果です。しかし、世界全体で見るとまだ25位に留まり、礼拝所の不足や言葉の壁が課題となっています。大切なのは、相手の文化への先入観を捨て、一人ひとりの声に耳を傾けることです。そんな心の多様性こそが、日本の観光をさらに豊かにするでしょう。
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