中国の医療機関や司法の現場において、最先端の音声認識サービスの活用が猛烈な勢いで加速しています。人工知能(AI)を搭載したスマートスピーカーなどの普及に加え、ビジネス現場での実用化が爆発的に進んだ結果、2019年の市場規模は5年前の約7倍にまで膨れ上がっているのです。
この市場を牽引するのが、中国音声認識界の絶対的王者である科大訊飛(アイフライテック)です。同社は2018年に司法分野へ進出すると、2019年8月までに全国400カ所以上の裁判所へシステムを納入しました。音声での資料検索なども可能になり、裁判時間が3割も短縮されたというから驚きです。
ここで使われる音声認識システムとは、人間の話し声を文字に変換したり、声の主を特定する「声紋(個人の声の特徴)」を識別したりする技術のことです。膨大なデータとAIを掛け合わせることで、中国特有の多様な方言にも対応できるようになり、業務の自動化を劇的に進めています。
さらに、蓄積された「ビッグデータ(膨大な情報の集まり)」を分析し、証言の矛盾を指摘して裁判官に助言する機能まで開発されました。SNS上では「映画のようなSFの世界が現実になった」「中国のスピード感は凄まじい」と、その劇的な進化に対して驚嘆の声が続々と上がっています。
また、別企業の雲知声智能科技は2019年7月に病院向けシステムを発売しました。患者がスマホに症状を吹き込むだけで文字化されて医師に届き、さらに医師の診断内容をAIが検証して妥当性をチェックします。すでに中国国内の200近い病院がこうしたシステムを導入済みです。
日本の法曹関係者からは「完璧ではない技術は導入できない」との慎重な意見もありますが、中国は「まずは実践し、走りながら精度を高める」という姿勢を貫いています。かつて世界を席巻した電子決済(フィンテック)と同様に、この強気の姿勢がイノベーションの源泉なのです。
技術の未完成さを恐れずに現場へ投入し、実戦で鍛え上げる中国流のアプローチは、日本の官公庁や企業も見習うべき強さだと私は感じます。減点主義で導入を躊躇している間に、世界の技術覇権は完全に塗り替えられてしまうという危機感を、私たちはもっと持つべきではないでしょうか。
一方で、この急成長には影もあります。北京捷通華声科技が開発した翻訳ソフトは、ウイグル語などにも対応し警察の取り調べを迅速化させました。しかしこれが少数民族の監視や人権侵害につながっているとして、米商務省は2019年10月にアイフライテックを制裁対象に指定したのです。
米国企業との取引が制限されたことで、同社は海外展開において大きな壁に直面しています。技術力で世界トップの米ニュアンス・コミュニケーションズに肉薄する中、この政治的リスクをどう乗り越えるのか、覇権を巡るハイテク戦の行方から今後も目が離せません。
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