2019年5月30日に東京で幕を開けた第25回国際交流会議「アジアの未来」では、通商や安全保障を巡る覇権争いを背景に、対立を深める米中関係に対するアジア各国の強い危機感が浮き彫りになりました。かつての米ソ冷戦を彷彿とさせる緊張感は、単なる貿易戦争にとどまらず、アジア全体を巻き込む「新冷戦」の入り口に立っているのではないか、という懸念が各国首脳や閣僚から相次いでいるのです。
この国際会議の場で、モンゴルのザンダンシャタル国民大会議議長が「我々は『新冷戦』の入り口に立っているのか」と問いかけたように、そのテーマは非常に刺激的でした。20世紀後半、アジアは軍事と経済の両面で影響力を競い合った米ソ両陣営による「東西冷戦」の最前線でした。米国が日本とともに主導して形成した秩序は、21世紀に入り、経済力を増した中国の台頭によって、「米中」の対立図式へと置き換わったと言えるでしょう。
経済面では、中国による広域経済圏構想「一帯一路」(ユーラシア大陸を股にかけた巨大なインフラ投資と経済協力のネットワークを構築する構想)と、米国が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」構想(インド太平洋地域における航行の自由や法の支配を重視し、米国が同盟国・友好国と連携を強化する戦略)が真っ向から対立しています。これは、安全保障だけでなく、経済的なリーダーシップを巡る激しい綱引きにほかなりません。
アジア地域は、日本から韓国・台湾といった新興工業経済群(NIES)、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)へと続く雁行(がんこう)型発展(ある国や地域の経済発展を、他の発展途上の国々が追随する形で、まるで鳥が群れをなして飛ぶように連鎖的に成長していく経済連携のモデル)という独自の経済連携プロセスを経て、非常に複雑なサプライチェーン(部品の調達から製造、流通を経て消費者に届くまでの「供給網」全体)を築き上げてきました。しかし、この米中対立は、この高度に連携したグローバル・サプライチェーンに深刻な打撃を与えることが懸念されています。
シンガポールのヘン・スイキャット副首相兼財務相は「アジア各国は(米中の)どちらにつくかという選択はしたくない」と発言し、超大国同士の対立に巻き込まれたくないというアジア諸国の本音を代弁した格好です。貿易摩擦を巡る議論では、米国への批判が目立っていたのが印象的でした。マレーシアのマハティール首相は、保護主義(自国の産業や雇用を守るために、他国からの輸入品に高い関税をかけたり、輸入制限を設けたりする政策)的な強硬路線を突き進むトランプ政権に対し、「米国はいつまでも優越した国ではないという事実を受け入れなければ」と苦言を呈しています。
マハティール首相の「2頭の巨大な象が戦えば、踏みつけられるのはその下の草だ」という比喩は、貿易戦争が長期化すれば、周辺の小国が甚大な被害を被るというアジア諸国の切実な懸念を、これ以上ないほど雄弁に示しています。また、親中路線で知られるカンボジアのフン・セン首相も「ダメージを受けるのは米国民だ」と指摘し、強硬な政策を取り続けるトランプ政権に対するアジア各国の不信感は、日増しに高まっていると言えるでしょう。
一方で、中国側にも知的財産権の侵害や技術移転の強要といった問題が指摘されているのは事実です。さらに、市場開放が不十分である点や、国家による産業補助金(国が特定の産業や企業に対し、資金援助や優遇措置を与えること)といった不公正な貿易慣行も、米国が問題視する大きな要因となっています。自由貿易の恩恵を享受し、経済成長を遂げてきたアジア諸国にとって、米中の保護主義的な動きは、将来の成長を阻害しかねない大きな脅威です。
ベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相が「世界の自由貿易協定(FTA)の3分の2はアジアが占める」と述べたように、アジア地域は、保護主義に抵抗し、グローバル化(経済活動や文化などが国境を越えて地球規模で拡大していく現象)を推し進める「砦(とりで)」の役割を担っています。米国抜きで環太平洋経済連携協定(TPP)を発効させ、さらに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も年内の交渉妥結を目指すなど、アジア独自の枠組みで自由貿易を堅持しようとする強い意志が見て取れます。
🇯🇵日本に課せられた重い宿題:米中対立の仲介役としての役割
出口が見えない米中対立をいかに食い止めるのかは、アジア全体にとっての最重要課題です。日本は、安倍晋三首相がトランプ大統領と蜜月関係を築く一方で、対中関係も改善させていることから、「米中間の仲介役」を自任しています。米国とは「インド太平洋戦略」で連携し、中国の「一帯一路」への協力も検討するなど、両国とのバランスを取りながら事態の打開を目指している様子が窺えます。
しかし、現時点では、その具体的な成果はまだ見えていません。この会議で、アジア各国首脳から「仲介役としての日本」への明確な期待の声が聞かれなかったことは、日本が直面する困難さを物語っているように思われます。新冷戦への突入という最悪のシナリオを回避するため、「アジアの中の日本」として、我々がどのような貢献を果たせるのかは、非常に重い宿題として日本に課せられていると言えるでしょう。
私見ですが、日本は単に両国の仲介に留まるのではなく、アジアの自由貿易と経済連携を主導するリーダーとしての役割を強化すべきです。TPPやRCEPといった多国間協定を通じて、アジアの経済秩序を自律的に強化し、米中のどちらにも偏らない強靭なサプライチェーンを構築することが、アジアの安定に繋がる最善の道だと考えます。
🐘「象の戦い」を憂うマハティール首相の提言
マレーシアのマハティール首相は、2019年5月30日の日本経済新聞のインタビューでも、米中の貿易摩擦について「新冷戦となるのを避けるべきだ」と述べ、両国に歩み寄りを強く促しました。一方的に相手国に受け入れを迫る手法では、良好な貿易環境は築けないとして、米中双方の譲歩が不可欠だと強調しています。輸出主導型であるマレーシア経済にも、この貿易摩擦が負の影響を与えているとの懸念を表明しました。
対日関係については、民間企業との協業に強い意欲を示しています。検討中のプロトン、プロドゥアに次ぐ第3の国民車メーカー立ち上げでは、自動車の基幹部分の独自開発に必要な膨大な資金と技術力を補うため、日本企業の力を借りたいと語っています。さらに、AI(人工知能)やビッグデータといった最新分野での日本企業の投資も大歓迎だと述べ、技術協力によるウィンウィンの関係構築に期待を寄せている様子が窺えます。
TPPについては、マレーシアの批准にはなお時間がかかると説明しました。これは、国内政策との整合性を取る必要があるためで、ASEAN経済共同体(AEC)による域内関税撤廃の利点を既に得ているため、批准を急ぐ必要はないとの見解を示しています。マハティール首相はまた、同日の会議講演で、東アジアの貿易に用途を限定する「共通通貨」の創設を提唱し、米ドルが基軸通貨(国際間の決済や為替レートの基準として広く使用される通貨)としての安定性を欠いているとして、ドル依存からの脱却を目指すべきだと主張したのです。
2018年12月に中国と東海岸鉄道の建設再開で合意したマレーシアは、中国との関係が改善したという認識を示しました。中国企業の最新技術、例えば本人認証やAIの技術を活用し、犯罪発生率の削減に繋げる構想にも言及しており、経済実利を重視するマレーシアの姿勢が鮮明です。首相職の禅譲(地位を譲ること)については、「過去の負の遺産の清算を終えてから、アンワル元副首相に引き継ぎたい」と述べるに留め、当面は自身が首相として懸案の解決にあたる考えを表明しています。
📱SNSでの反響:アジアの危機感を共有する声
この米中対立とアジアの危機感に関するニュースは、ソーシャルメディア(SNS)上でも大きな反響を呼んでいます。多くのユーザーが「新冷戦」という言葉に反応し、「アジアの国々がどちらかを選ぶなんてできないのは当然だ」「『2頭の象』の例えが的確すぎて胸が痛い」といったコメントが散見されました。サプライチェーンの混乱に対する懸念の声も多く、「製造業にとって死活問題だ」「関税合戦は世界経済全体を冷やす」といった意見が目立っていました。
特にマハティール首相の「共通通貨」創設の提言については、その革新性から大きな注目を集めました。「ドル依存脱却は長年の課題だ」「実現可能性は低いかもしれないが、アジアが独自性を打ち出す一歩になる」など、賛否両論の活発な議論が巻き起こっています。アジアの未来、そして自由貿易の行方に対する関心の高さが、SNSの投稿から強く感じられるでしょう。
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