特殊鋼業界のリーディングカンパニーである大同特殊鋼が、さらなる飛躍を目指して大胆な一手を見せました。2019年07月09日、同社は需要が極めて旺盛なステンレス鋼の生産能力を、2023年を目処に現在の2割増となる月間2万トン体制へ引き上げる方針を固めています。この増産計画を支えるため、知多工場(愛知県東海市)へ30億円から40億円規模の設備投資を断行し、盤石な供給体制を構築する構えです。
SNS上では、この発表に対して「製造業の底堅さを感じる投資判断だ」「半導体不足が叫ばれる中で、材料供給の強化は心強い」といった期待の声が寄せられています。ステンレス鋼は、鉄にクロムなどを混ぜることで錆びにくくした合金ですが、なかでも大同特殊鋼が手掛ける製品は、過酷な環境に耐えうる高い耐熱性と耐腐食性が大きな特長です。これが自動車の心臓部や半導体製造装置といった、現代産業の急所に欠かせない存在となっています。
英調査会社テックナビオの予測を紐解くと、2018年から2022年にかけて世界のステンレス鋼市場は年平均5%という安定した成長が見込まれています。現在、同社の主力拠点である星崎工場(名古屋市)はフル稼働の状態が続いており、物理的な拡張の余地がほとんどありません。そこで同社は、1950年代から続く伝統ある製造ラインの限界を打破するため、知多エリアへの大規模な進出という英断を下したのです。
旧造船所跡地を活用!知多工場を起点とした新たな生産拠点戦略
今回のプロジェクトの鍵を握るのは、隣接する旧IHI愛知事業所の広大な土地です。大同特殊鋼は、2019年中にも約20万平方メートルに及ぶ広大な敷地と既存の建物を取得し、ここを新たなステンレス鋼の生産拠点として再編する計画を立てています。これまで造船を支えてきた歴史ある場所が、次世代のハイテク産業を支える素材供給の拠点へと生まれ変わる姿は、まさに産業構造の変化を象徴する出来事といえるでしょう。
経営面では、同社は「機能材料」と呼ばれる、より専門的で高い利益が見込める製品群を重視する戦略へシフトしています。2019年03月期の連結決算では、売上高が前期比8%増の5432億円と好調だった一方、営業利益は338億円と7%減少しました。これは原料価格の高騰が収益を圧迫したためですが、こうした外部環境の変動に左右されない強靭な収益基盤を作るためには、付加価値の高いステンレス鋼の増産が不可欠なピースとなります。
私は、この投資こそが日本の素材メーカーが生き残るための正攻法だと考えます。汎用品での価格競争ではなく、他社に真似できない高機能な素材で勝負する姿勢は、中長期的な企業価値の向上に直結するはずです。特にフリーキャッシュフロー、つまり会社が自由に使える手元資金が限られるなかで、配当と投資のバランスを取りつつ、将来の成長にリソースを集中させる石黒武社長の決断は、非常に攻めた経営判断だと評価できるのではないでしょうか。
2020年度を最終年度とする中期経営計画においても、ステンレス鋼の強化は最優先事項として掲げられています。知多工場では2019年度中にも、製造工程の無駄を省き、原料から製品になる割合を示す「歩留まり」を改善するために40億円を投じる予定です。2020年度には機能・磁性材料部門の営業利益を、2018年度実績から40%も引き上げるという意欲的な目標に向けて、今まさに熱い挑戦が始まっています。
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