2019年07月19日現在、日本の金融市場を揺るがす大きな転換点が、深刻な足踏み状態に陥っています。証券から商品先物までを一括して取り扱う「総合取引所」の実現に向けた、日本取引所グループ(JPX)による東京商品取引所(東商取)の株式公開買い付け(TOB)が、当初予定の6月末から延期される事態となりました。この遅れの背景には、両社の間で埋まることのない「買収価格」を巡る深い溝が横たわっています。
SNS上では「ようやく世界基準の総合取引所ができると思ったのに、また身内揉めか」「電力先物への期待値が違いすぎるのでは?」といった、進展を待ち望む投資家やビジネスマンからの不安や皮肉が混じった声が目立ちます。国策として掲げられた構想でありながら、民間企業としての意地と計算がぶつかり合う生々しい現場の状況が、ネット上でも大きな関心事となっているようです。統合への期待が大きい分、この停滞への失望もまた深いものがあります。
「黒塗りの資料」が物語る異例の攻防戦
2019年07月11日に開催された東商取の取締役会では、極めて異例の光景が繰り広げられました。配布された資料には、TOB価格の算出根拠が記されていましたが、肝心の数字はすべて黒塗りされていたのです。驚くべきことに、この資料を用意したのは東商取側ではなく、買い手であるJPX側でした。JPXの清田瞭CEOの名が記された文書を配布するという強硬手段に出た背景には、議論を先送りし続ける東商取への強い焦燥感が透けて見えます。
東商取側が価格を隠した理由は、JPX側の提示額があまりに低く、取締役会での反発を避けたかったからだと推測されます。東商取の純資産は約48億円ですが、提示額はそれをさらに下回る水準のようです。対する東商取側は、最大で100億円程度の価値を自負しており、「いくら何でも安すぎる」という不満が噴出しています。この数値を巡る駆け引きは、まさに意地と意地がぶつかり合う、一歩も譲れないデッドヒートの様相を呈しています。
算出手法の相違と「電力先物」への期待値
なぜここまで価格に差が出るのでしょうか。JPXは東商取の「過去」と「現状」を重視しています。4期連続の赤字という厳しい経営状況を鑑み、保守的な評価を下しているのです。対して東商取は、将来の収益力を現時点の価値に換算する「ディスカウントキャッシュフロー(DCF)法」という専門的な手法を重視しています。これは、将来手にする現金を現在の価値に割り引いて計算する方法で、今後の成長への期待が価格に大きく反映される仕組みです。
東商取が強気な根拠としているのが、今夏の上場を目指す「電力先物」です。電力自由化に伴い、電気の価格変動リスクを回避するヘッジ手段としての需要を見込んでおり、これを統合後の相乗効果と合わせれば、企業価値は跳ね上がると主張しています。しかし、実績を重視するJPX側との認識の差は依然として2倍近く開いたままです。この「未来の価値」をどう見積もるかという難問が、交渉の大きな壁となって立ちはだかっています。
編集者が見る「国策」としての重圧と未来
個人的な見解を述べれば、今回の騒動は単なる一企業の買収劇ではなく、日本の資本市場が国際競争力を保てるかどうかの分水嶺だと感じます。世界では、株も金も穀物も一つのプラットフォームで取引できるのが当たり前です。12年も前から議論されているこの構想が、またしても「価格」という目先の利益で頓挫することは、日本市場の地盤沈下を招きかねません。投資家の利便性を最優先に考えるべきであり、早期の妥結が強く望まれます。
10月の統合実現を逆算すれば、手続きの都合上、2019年08月末が実質的なタイムリミットと言えるでしょう。かつての東証と大証の合併時にも、最後は行政の強い働きかけが決定打となった歴史があります。今回も「霞が関」の動向が注目されますが、まずは両社が歩み寄り、世界に誇れる「総合取引所」の旗印を掲げてほしいものです。足並みがそろわない今の状態では、世界の背中を追いかけるどころか、取り残されてしまうでしょう。