日本海の豊かな恵みが育む山口県長門市の仙崎地方は、古くからかまぼこの産地として知られており、その美味しさの秘密は、この海域で豊富に獲れるエソという魚にあります。一般の食卓ではあまり馴染みがないかもしれませんが、エソは練り製品に最適な淡泊さと、素朴で上質な甘みを持つ、まさに「ぜいたく」な原料なのです。今回、筆者はこの仙崎の地で、伝統的なかまぼこ作りを実際に体験してきました。
体験の舞台となったのは、JR仙崎駅からほど近い青海島(おおみじま)にある旧青海島小学校の理科実験室です。ここは、地元住民の方々が立ち上げた体験・交流活動グループ「青海島共和国」の拠点となっており、この日は代表の浜野達男さんに指導をお願いしました。体験は、2019年6月8日に行われ、準備されたのは内臓を除いた約25センチメートルのエソです。見た目はカマスに似ていて、決して見栄えが良いとは言えませんが、その身にはかまぼこの味を左右する重要な要素が詰まっています。
かまぼこ作りは、まず魚を三枚におろす作業から始まり、これがなかなか難しい工程でした。小骨が多いエソを丁寧にさばき、骨と皮を取り除いて切り身にしていきます。地元で長年かまぼこに携わってきたという尾上キヨ子さんは、「幼いころから様々な魚のすり身を食べてきたが、エソは格別だった」と語り、その貴重さを改めて教えてくださいました。その後、切り身をフードプロセッサーでペースト状のすり身にするのですが、この時、卵白、食塩、片栗粉、ミリン、そしてわずかなアゴだしと水を加えます。浜野さんによると、水の量が成型のしやすさや味に大きく影響するため、「水はきちんと計ることが大切」だそうです。
練り上がったすり身は、まな板の上で包丁の腹の部分、つまり**平(ひら)**を使って混ぜ、伸ばすという作業に移ります。これは材料を均一にするだけでなく、すり身の中に含まれる余分な空気を抜くための重要な工程です。そして、いよいよかまぼこ板(長さ約11センチ、幅約5.5センチ)にすり身をかまぼこ型に盛り付けていくのですが、これも熟練の技が必要で、すり身が包丁に張り付いたり、板から溢れ出たりと、筆者の作ったかまぼこは、なんとも不格好な姿となってしまいました。
仙崎かまぼこの伝統製法と実食レポート
仙崎地方には「焼きぬき」という、板の下から直火でじっくりと加熱して焼き上げる伝統的な製法があり、これにより独特の弾力を持つかまぼこが生まれます。しかし、大がかりな設備が必要なため、今回の体験では約15分かけて蒸し上げる方法を採用しました。蒸し上がったばかりの白いかまぼこは、熱でわずかに膨らんでいました。自作のいびつな形のかまぼこを厚めに切ってみると、切り口には小さな穴がたくさん空いており、これは筆者の練り込みが不十分だった証拠でしょう。
一口食べてみると、想像していたよりも柔らかで、ふんわりとした食感です。噛むほどに、エソの持つ素朴な甘みが口の中にじんわりと広がっていくのが分かります。時間をおいて冷ますことで、より弾力と甘みが増すとのこと。手間ひまをかけて自分で作ったかまぼこは、形こそいびつではありますが、魚本来のしっかりとした味わいを感じられる格別なものでした。筆者の意見ですが、かまぼこというシンプルながら奥深い食品は、その土地の新鮮な原料と職人の技が融合してこそ、真価を発揮するのだと改めて実感いたしました。
地元グルメとSNSで話題の反響
体験とセットになっている昼食では、市場に水揚げされたばかりの豪華な魚介類を堪能できました。この日はヒラマサ、タイ、ケンサキイカ、カタクチイワシ、サザエなどが食卓に並び、さらに、数日前に定置網に入り、届け出と許可を得て食用とされたゴンドウクジラの皮脂を茹でて薄切りにした珍味も供されました。一夜干しの干物や吸い物なども加わり、食卓はまさに豪華絢爛という表現がぴったりな内容です。仙崎の道の駅「センザキッチン」では、これらの鮮魚を購入したり、グリルハウスで焼いて味わったりできるため、観光客にも大変人気を博しています。
仙崎かまぼこの話題はSNS上でも大きな反響を呼んでおり、「エソの甘みが全然違う!」「焼きぬき製法の弾力が忘れられない」といった、その独特の食感と味わいに対する感動の声が多く寄せられています。特に、地元老舗メーカーのフジミツが仙崎近海産のエソのみを使用し、伝統的な焼きぬき製法で作り上げた「白楽」は、「お取り寄せ必須の逸品」として話題です。また、仙崎駅の北には地元出身の詩人金子みすゞの記念館があり、長門市内には洋画家香月泰男の美術館もあることから、「かまぼこ作りと合わせて文化的な観光も楽しめる」という、体験と地域の魅力を両方楽しんだ喜びの声もSNSで多く見受けられます。この体験は、原則4名以上、1週間以上前の申し込みが必要ですが、食事代込み1人3,000円(修学旅行生も可)で年中無休で受け付けており、家族や友人との特別な思い出作りに最適だと言えるでしょう。
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