2019年6月13日に中央大学の岡嶋裕史教授が寄稿された「やさしい経済学」の記事から、私たちが注目したいのは、次世代の基盤技術として期待されるブロックチェーンが、どのような仕組みで動いているのかという点です。その中核を担っているのが、ピア・ツー・ピア(P2P)システムだというのです。ブロックチェーン技術においてP2Pは必須ではないものの、この技術の意義を最大限に引き出すためには、P2Pの採用が極めて重要だと解説されています。
ネットワークのデータ処理の形態には、中央にすべてを委ねる「集中処理」と、権能や資源を分かち合う「分散処理」が存在します。例えば、私たちが日常的に利用する「クライアントサーバーシステム」は、サービスを提供する側(サーバー)と、それを利用する側(クライアント)が役割を分担する、一種の分散処理といえます。これに対してP2Pは、分散処理をさらに徹底させた形態と捉えられます。このネットワークに参加するすべてのコンピューター端末、それが高性能なノートパソコンであっても、手元のスマートフォンであっても、平等な権限を持つのが最大の特徴です。
この平等性は、従来の金融システムでは考えられない処理の進め方を可能にします。一例としてビットコインが挙げられていますが、ここでは、最初の取引(トランザクション)が記録された最初のブロックから、つい今しがた生成されたばかりの最新ブロックまで、ネットワーク参加者の一人ひとりが、すべてのデータを取得し確認できることが理念上は可能とされています。さらに、望むならば、そのデータの正当性を検証する作業に自ら参加することさえできるのです。
この「管理者がいない」という構造こそ、ブロックチェーンの最も重要な美点だと多くの専門家が指摘しています。一般的なシステムでは、管理者が不可避的に大きな権限を持つため、もしその管理者が不正を働くと、それを食い止めることは非常に困難になります。権限の分散や相互けん制といったチェック機能は設けられていますが、管理者の不正リスクは常にシステム運営を脅かす頭痛の種でした。しかし、P2Pを採用したブロックチェーンでは、全員が平等で特定の管理者が存在しないため、構造的に権限の集中が起こらない仕組みになっているのです。
このような権限の非集中という特徴は、TwitterなどのSNSでも「真の民主的なシステム」「透明性が確保される仕組み」として、多くのユーザーから絶賛をもって迎えられました。特に、既存の巨大なプラットフォームや金融機関に対する不信感を持つ層からは、この管理者不在の特性が、自由で公正な社会を築くための鍵になると熱狂的に支持されている様子が見受けられます。私自身も、システム設計において「信頼を置く必要がない(トラストレス)」という思想は、これからのインターネット社会を考える上で非常に画期的なアプローチだと強く感じています。
ですが、どんな優れた技術にも必ず短所が存在します。ブロックチェーンのP2Pシステムも例外ではありません。従来の中央集権型のシステムであれば、ミスや事故が発生した際、管理者がその絶大な権限を行使して問題を解決したり、データ修正を行ったりすることができました。しかし、P2Pでは管理者がいないため、こうした救済措置を期待することができないのです。重大なシステム事故が起きた場合でも、ネットワークの参加者全員が手をこまねいてしまうことや、一度間違って記録されたデータが修正不可能になってしまうといった弊害が生まれる可能性があります。
つまりブロックチェーンは、その根幹をなす平等性と非中央集権性が、同時に事故対応の脆弱性という短所にも繋がっている、光と影を併せ持つ技術だといえるでしょう。この点を踏まえると、ブロックチェーンは万能薬ではなく、その特性をよく理解し、管理者が不要な分野や、透明性を最優先したい領域など、使いどころを慎重に見極めることが極めて重要になってくるでしょう。
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