近年、働き方改革や副業ブームの流れに乗り、会社員が自ら事業主となるための手段として「ミニM&A」(企業の小規模な買収・合併)が注目を集めています。インターネットを活用したマッチングサービスの普及により、以前よりもはるかに手軽に、個人でも企業買収に乗り出せる時代となりました。しかし、この手軽さの裏には、大きな落とし穴が潜んでいるのも事実です。
専門家たちは、軽い気持ちで異業種に参入する買い手が増えている現状に警鐘を鳴らしています。たとえば、M&A仲介会社であるストライクの荒井邦彦社長は、「安値で売りに出されている企業には、借入金が多すぎる、あるいは事業規模が極めて小さいなど、必ずそれなりの理由が存在します」と指摘しています。買収した後に、老朽化した設備への投資が必要になるなど、予期せぬ出費に迫られるケースも少なくありません。荒井社長は、そうした事態に備えて「事業買収時には余裕資金を確保しておくべきです」と強調しています。
実際、副業としての事業買収に挑戦したものの、軌道に乗せることができず、わずか1年程度で売却を余儀なくされる個人事業主も多数存在します。このような失敗の背景には、買収前のデューデリジェンス(企業監査のこと。買収対象企業の資産や財務状況、リスクなどを詳細に調査し、企業価値を正しく評価する手続きです)が不十分だったことが挙げられます。
M&Aアドバイザリーを手掛けるCBアドバイザリーの大西望社長は、「簿外の債務(賃借対照表に記載されていない隠れた負債)や取引先との複雑な契約内容、さらには労務問題など、細かく点検すべきリスクは非常に多いのです」と述べています。買収後のトラブルを未然に防ぐためには、会計士や弁護士といった専門家を積極的に活用することが不可欠でしょう。インターネットのマッチングサイトを通じて「薬局は儲かりそう」といった安易な動機で参入しようとする人に対しては、専門家側で紹介を断るケースもあるといいます。
こうした「M&A初心者が抱えるリスク」への対策として、マッチングプラットフォームのトランビでは、2019年春から、会計士や弁護士などの専門家に定額料金で相談できるプランの提供をスタートさせました。同社の高橋聡社長は、「事業承継に興味を持つ人々への教育が、今後のM&A市場における大きな課題である」との認識を示しています。M&Aセミナーで経営を仮想的に体感できるゲームを取り入れるなど、経営者としてのスキルや知識を学ぶ機会の提供にも力を入れているところです。
私見ですが、個人によるミニM&Aの拡大は、日本の事業承継問題や経済の活性化に大きく貢献する可能性を秘めています。しかし、その根幹には「経営」という非常にシビアな側面があることを忘れてはなりません。単なる「投資」や「副業」として捉えるのではなく、「一生を左右する事業の承継(企業の経営権や財産を次の世代や人物に引き継ぐこと)である」という強い覚悟と、専門知識武装の必要性を強く訴えたいところです。
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