高齢化が進む日本の中小企業において、事業承継は待ったなしの喫緊の課題となっています。特に、いわゆる団塊世代(1947年~1949年生まれ)の経営者層が70代に差し掛かる2019年現在、円滑な世代交代は企業の存続そのものを左右するといっても過言ではないでしょう。この流れのなかで、後継者不足を解消し、事業を未来へとつなぐ手段として、外部から優秀な経営人材を採用する動きが非常に活発化しています。企業の状況や抱える課題に応じて、30代から60代まで、幅広い経験を持つ人材が採用ターゲットとなっているのです。
日本経済を支える屋台骨である中小企業ですが、その経営者の高齢化は深刻です。日本にある企業の99%は中小企業で、全労働者の70%が中小企業に勤務しています。そんな中小企業の経営者で、今後10年間に70歳を超えるのは約245万人にも上ると予測されています。さらに、そのうちの3分の2は、現時点で後継者が未定という状況です。中小企業の経営者が平均して67.7歳で引退するデータがあることからも、一刻も早い事業承継が必要であることがわかります。
実際に、2018年には「休廃業・解散」した企業が2万3,026件に達し、これは倒産件数の約3倍にあたる数字です。中小企業庁は、このまま手をこまねいていれば、2025年には日本企業全体の3分の1、実に127万社もの企業が廃業リスクに直面する可能性があると試算しており、この事業承継問題は社会全体で取り組むべきテーマだと私は考えています。20年ほど前までは、家業を親族が継ぐ「親族内承継」が主流でしたが、少子化や、子供が事業への興味を示さないといった理由から、現在は「社内承継」や、外部の第三者に託す「第三者承継」が半数以上を占めるようになっているのが現状です。
多様化する事業承継のニーズ――外部人材採用の4つのパターン
事業承継のフェーズにおいて、企業が求める人材のニーズは多岐にわたります。経営コンサルタントの森本千賀子氏の分析によると、外部から経営人材を採用するケースは、大きく分けて4つのパターンがあるといいます。それぞれのパターンで、求められるスキルや経験のレンジが異なりますので、詳しくご紹介しましょう。
一つ目は、(1)引き継ぐ「社長」を直接採用するケースです。社内に適任者がいない場合、外部から社長または社長候補を招き入れます。入社後すぐに経営を引き継ぐ即戦力としては、40代後半から50代が中心となり、中堅から大手企業で役員、事業部長、子会社社長といった「経営」に近いポジションを経験した人物が求められます。特に、経営管理・営業・マーケティングなど、事業全般をマネジメントできる「攻め」と「守り」両方の経験やスキルが必須条件です。また、既存社員からの信頼を得られる実績も重要になるでしょう。
二つ目は、(2)買収したファンドが「社長」を採用し送り込むケースです。オーナーが事業を投資ファンドなどに売却(M&Aの一種)した場合、ファンド側が新しい経営トップを採用し、企業価値の向上を目指します。この場合は、(1)で述べた人材像に加え、企業を抜本的に立て直す「再生」や「変革」を断行し、実際に企業経営の舵取りを大きく変えた経験を持つ、より確かな実績のある経営者が求められる傾向にあります。
三つ目は、(3)子供が社長を継ぐ前提で「経営ボード候補」を採用するケースです。現社長の子供が後継者となる予定だが、まだ若く、経営チームに迎え入れるにあたって懸念がある場合に、子供と同年代の人材を次期経営ボードの候補として採用し、育成しようというものです。この場合、後継者となる子供は30代で、5年以内を目処に承継を想定している例が多く見られます。現在の後継者候補には、帝王学(後継者に必要な教育)を学ばずに社会人となり、大都市圏や海外の大学を出て、新卒で大手グローバル企業に入社している傾向があるとのこと。そのため、現場の最前線で経験を積んだプロフェッショナルとして、30代から40代の営業、マーケティング、財務、人事などの専門分野に長けた人材が、次期社長を支えるブレインとして期待されています。
さらに、(3)には別のパターンとして、次期社長となる子供を「経営者として育成してほしい」というニーズから、さらに上の年代の経営経験者を採用するケースもあります。親子関係であるがゆえに生じる感情的な衝突や遠慮を避けるため、現社長が「自分の代わりに子供を育ててくれる人」を外部に求めるのです。これは、実質的に(1)の社長(候補)を採用するニーズに近いといえるでしょう。
四つ目は、(4)顧問、社外取締役などを招へいするケースです。社内の人材が経営を引き継ぐものの、その承継の機会に事業や組織のブラッシュアップ、あるいは変革を図りたいというニーズから、経営企画や経営戦略など全体を俯瞰して見られる視点を持つ人材が求められます。この場合、正社員としてではなく、業務委託や顧問、社外取締役といった形で、外部から専門的な知見やノウハウを享受できる方を招へいする形が増えているのです。すでに複数の企業を支援している元経営者や、高度な専門性を持つプロフェッショナルが、既存のリソースを活用して経営に参画できるというメリットがあります。
事業承継のフェーズで転職する「やりがい」と知っておくべき注意点
こうした事業承継のタイミングを迎えた企業への転職は、大きなメリットとキャリアアップのチャンスをもたらします。「経営に携わりたい」「経営者に近いポジションで働きたい」という願望を実現できる絶好の機会です。ゼロから事業を立ち上げるベンチャー企業のようにハイリスクな状況ではなく、すでに築き上げられた顧客基盤やリソースを活用しながら、新たなチャレンジができる点も大きな魅力でしょう。また、地方企業からの求人が多いため、故郷へ戻るUターンや、好きな土地で働くIターンを実現できる可能性も高まります。さらに、株式の承継を伴う場合は、企業の価値を高めることがダイレクトに自身の収入に反映されるという、大きなやりがいにつながります。
しかし、留意すべき注意点もあります。一つは、入社後に策定する今後の計画が「どこまで本気で実行されるのか」を事前に確認することです。計画が変更され、思い描いていた仕事ができなくなるリスクも否定できません。また、社長の希望と親族の思惑が食い違っていることが、後々トラブルに発展するケースも散見されますので、株式の保有状況や親族間の関係性については可能な限り把握しておくべきでしょう。そして、承継を機に「変革」を志向する場合、長年その企業を支えてきた既存社員との関係構築には、必ず苦労が伴います。組織を融合させ、変革へのコンセンサス(合意)を得るための粘り強さと覚悟は、不可欠だと考えられます。
いずれにせよ、素晴らしい商品や技術、そして多くの顧客やファンを持ちながら、後継者不足によって廃業の危機に瀕する企業を救い、次の成長へと導くというミッションは、社会的な意義も非常に大きく、プロフェッショナルとしてこれ以上ないほどの大きな達成感を得られる仕事になるでしょう。
コメント