大阪大学発の創薬バイオベンチャーとして大きな期待を集めていた「ステムリム」の株式上場が、市場に波紋を広げています。2019年09月12日の上場に際し、当初想定されていた価格から大幅に下方修正されるという、極めて異例の事態が発生したのです。当初の想定発行価格が3000円前後であったのに対し、最終的な公開価格は1000円と、実に3分の1まで引き下げられました。この劇的な「ディスカウント」は、バイオ投資の難しさを象徴しています。
今回の価格設定に際しては、主幹事証券会社と投資家の間で大きな温度差が生じました。ステムリムが掲げる「再生誘導医薬」は、体内の細胞を活性化させて組織を再生させるという画期的な技術ですが、その収益化には長い年月を要します。証券会社は技術力を高く評価し、強気の価格を設定した一方で、実際の買い手となる機関投資家たちは、慎重な姿勢を崩しませんでした。このズレこそが、今回の価格暴落を招いた直接的な原因だと言えるでしょう。
バイオベンチャーの価値評価という難問と業界の歪み
創薬系企業の価値算出、いわゆる「バリュエーション」は、非常に専門的で複雑な作業です。開発中の新薬が承認される確率や将来の市場規模を予測しなければならず、一つの臨床試験の結果で企業の価値がゼロになるリスクも孕んでいます。専門的な知識を持たない一般の投資家にとっては、まさに未知の世界と言えるかもしれません。SNS上でも「これほどの価格差が出るなら、最初の見積もりは何だったのか」といった、証券会社の査定能力を疑問視する声が噴出しています。
編集者の視点から見れば、今回の騒動は証券業界が抱える構造的な問題を浮き彫りにしたと感じます。近年の証券会社間では、魅力的な上場案件を獲得しようとするあまり、発行体にとって都合の良い高値を見積もる「主幹事獲得競争」が激化していました。案件を取りたいがために現実離れした高値を提示し、結果として投資家にそっぽを向かれるという流れは、市場の健全性を損なう恐れがあります。適正な価格を見極める「目利き」の力が、今こそ問われているはずです。
2019年09月12日という日付は、日本のバイオベンチャー投資の歴史において、一つの転換点として記憶されることになるでしょう。技術の素晴らしさと、投資商品としての妥当性は必ずしも一致しないという厳しい現実を、市場は突きつけました。しかし、こうした痛みを伴う調整を経て、より透明性の高い価値評価基準が確立されることが期待されます。革新的な医療技術が正当に評価され、健全な形で資金が循環する未来を、私たちは見守っていく必要があるのではないでしょうか。
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