2019年の夏、ニューヨークのテニス界を最も熱狂させているのは、間違いなく世界ランキング5位の若き新鋭、ダニール・メドベージェフ選手でしょう。彼は2018年の楽天ジャパン・オープンで優勝を飾り、日本のファンにも馴染み深い存在です。そんな彼が2019年09月03日(現地時間)、自身初となる四大大会の準々決勝という大舞台に、腕と両足に痛々しいほどのテーピングを巻いて姿を現しました。
試合後の会見で本人が「実は棄権する寸前の状態だった」と告白するほど、満身創痍のコンディションだったようです。しかし、ここからが今大会のメドベージェフ選手の真骨頂といえます。体力の消耗を極限まで抑えるため、ベースライン際からゆったりとしたテンポでボールを打ち返す「省エネプレー」を徹底しました。この独特なスタイルが、対戦相手のリズムを巧みに狂わせていくことになります。
「自分でも格好悪いプレーだと思ったし、本当は普通に勝ちたかった」とはにかみながら語る姿には、勝利への執念と冷静な戦略眼が同居していました。この「ベースライン」とは、テニスコートの最後端にある線のことで、ここを拠点に打ち合う選手をベースライナーと呼びます。彼はその基本を逆手に取り、相手を幻惑する「のらりくらり」とした配球で勝利を掴み取ったのです。
今大会の彼は、プレー以外でも大きな注目を集めています。2019年08月30日に行われた2回戦で、ボールボーイに対して感情を爆発させて以来、会場からは嵐のようなブーイングを浴び続けてきました。SNS上でも「なんて悪役なんだ」「これこそがエンターテインメントだ」と、彼の破天荒な振る舞いに対する賛否両論が飛び交い、大きな反響を呼んでいます。
驚くべきは、その逆境を楽しむ彼のメンタリティです。「観客のブーイングが自分のエネルギーになる」と言い放つ不敵な態度は、皮肉にも地元のファンを面白がらせ、敵役としての人気を確立しました。ところが、この準々決勝のコートでは一転して温かい歓声が優勢となります。これには彼も「失礼なことをした自分に、こんな声援をくれるなんて」と素直に感謝の意を表していました。
2019年07月下旬から出場した直近の3大会すべてで決勝に進出し、マスターズ大会での優勝も果たしている彼は、現在まさに絶好調の波に乗っています。連戦による足の疲労はピークに達していますが、準決勝までは2日間の休息が確保されました。この期間があれば「足の状態は戻る」と力強く宣言しており、コンディションの回復に期待がかかります。
編集者である私個人の視点では、かつてコート上で激しい気性を露わにしながら愛された名選手、マラト・サフィン氏を彷彿とさせます。テニス界には時に、優等生ばかりではない「愛すべきヒール」が必要ではないでしょうか。ロシア勢として14年ぶりとなる四大大会制覇という歴史的快挙に向けて、この若き知略家がどのような結末を描くのか、目が離せません。
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