フリマアプリ大手メルカリの米国事業が、今、投資家や市場関係者の大きな注目を集めています。日本ではサービス開始からわずか5年で累計流通額1兆円を達成するなど、急成長を遂げた同社ですが、2019年1~3月期の連結営業損益は23億円の赤字となっており、好調な国内事業(営業黒字20億円)の利益を、米国事業の赤字が押し下げている構造にあるためです。同社は2018年12月には英国からの撤退を決め、さらに同年6月7日にはライブ動画配信サービスの終了を発表するなど、米国事業の戦略見直しを進めており、今後の成長と株価動向は、この米国市場での成功にかかっているといえるでしょう。
メルカリが米国事業から撤退しない最大の理由は、その潜在市場の巨大さです。同社の調査によると、米国では多くの世帯でクローゼットや車庫に大量のモノが蓄積されており、国民の5人に1人が自宅外のレンタル収納スペース、いわゆる「トランクルーム」を利用している状況が見られます。この家庭に眠る不用品の総数は推定で53億品にも上り、もしこれらすべてが売却された場合、その総額は**930億ドル(約10兆円)という、途方もない規模に達すると見込まれているのです。この巨大なマーケットを自社のプラットフォームに取り込むことができれば、メルカリの成長は疑いようがありません。
米国市場の開拓を進めるメルカリ米国法人のジョン・ラーゲリン最高経営責任者(CEO)は、2019年6月13日のメディア取材に対し、「1日の出品数は15万件を超え、その数は右肩上がりに伸び続けている」と、事業に対する確かな自信を示しています。ラーゲリンCEOは米フェイスブックの元幹部であり、メルカリの山田進太郎会長が直々にスカウトした人物です。彼らは、プラットフォームとしてのミッションを「購入よりも出品を簡単にし、『誰でも簡単にモノを売れる』というメッセージを浸透させること」だと定義づけ、戦略を練っています。
幸いにも、現在の米国では、片付けコンサルタントの近藤麻理恵氏によるネットフリックス番組をきっかけとした「コンマリブーム」という社会現象が追い風となっています。近藤氏の提唱する「ときめき(Spark Joy)」を基準に不用品を整理する動きが広がり、まさにモノを手放す機運が高まっています。メルカリは、この流れを捉え、米国で文化として根付いている自宅のガレージや庭先での「ガレージセール」を、そのまま「ネット版ガレージセール」として置き換える存在になることができれば、大きな勝機が見えてくるでしょう。不用品売却という体験を、より簡単で身近なものにすることが成功の鍵を握ります。
この戦略に基づき、ラーゲリンCEOは「買い」よりも「売り」を強調した広告への切り替えを実施し、さらに米物流大手UPSとの提携により匿名配送を導入するなど、矢継ぎ早に具体的な施策を打ち出しています。これらの施策が功を奏し、2019年1~3月期の米国での流通総額は、前年同期比で7割増の1億300万ドル(約110億円)**と大きく伸長しました。SNS上でも、「コンマリ効果でメルカリを使う人が増えた」といった投稿が見られ、フリマアプリへの関心が高まっていることが分かります。私の見解では、この「不用品」を資産と捉え、簡単に出品できる仕組みづくりは、非常に理にかなった戦略だと言えます。
メルカリ米国事業の黒字化はいつ?株式市場の冷ややかな反応
しかしながら、足元の数字を冷静に見ると、課題も見えてきます。現在の流通総額の増加ペースでは、米国事業が黒字化の目安とする「月間1億ドル」を超えるまでに、およそ2年程度の期間が必要と試算されています。米国上場からまもなく1周年を迎える2019年6月19日を前に、同社の株価は公開価格の3,000円近辺で推移しており、上場直後の最高値である6,000円の半値にとどまっています。この状況は、株式市場の投資家たちがメルカリに対して、まだ期待感、すなわち「ときめき」を感じていないことの表れだと考えられるでしょう。
ファイブスター投信投資顧問の運用部長である大木将充氏は、「日本発の企業が米国でプラットフォーマー、つまり多くの人が集まりサービスが提供される**基盤(プラットフォーム)**となることの難しさが、市場に認識され始めており、上場当初の過度な期待感が薄れてきている」と指摘しています。米国は物流網やクレジットカード決済など、日本とは異なる複雑な商習慣があり、日本企業がゼロからシェアを拡大することは容易ではないでしょう。しかし、メルカリがもし10兆円市場という「お宝」を掘り当てることができれば、その将来性は計り知れないものがあります。米国での出品者層の定着が、今後のメルカリの未来を左右するでしょう。
コメント