欧州経済の牽引車として長く君臨してきたドイツが、いま大きな岐路に立たされています。2019年09月10日にフランクフルトで開催された国際自動車ショーでは、華やかな新型車の影で、業界首脳陣から悲痛ともとれる警告が相次ぎました。独自動車部品大手ZFのシャイダー社長は、これまでの柔軟な労働調整ではもはや限界であることを示唆し、深刻な景気後退への強い警戒感を露わにしています。
具体的な数字を見れば、その危機感の根拠は一目瞭然でしょう。2019年01月から08月におけるドイツ国内の乗用車生産台数は316万台に留まり、前年の同じ時期と比較して11%も落ち込んでいます。この不調の最大の要因は、生産全体の約4分の3を支える「輸出」が14%も急減したことにあります。主要市場である中国の景気減速や、米中貿易摩擦の激化が、ドイツの屋台骨を容赦なく揺さぶっているのです。
SNS上では「ドイツ車が売れないのは世界経済の末期症状ではないか」といった不安の声や、「環境規制への対応でコストが嵩んでいる影響も大きそうだ」という冷静な分析が飛び交っています。実際に現場の視線は冷ややかで、独アウディのショット社長は、2020年の世界新車販売について良くて横ばい、最悪の場合はさらなる減少もあり得ると予測しています。かつての勢いは影を潜め、業界全体が深い霧の中に立ち尽くしている状態といえます。
「黒字至上主義」からの脱却はなるか?岐路に立つドイツ財政
ここで注目すべきは、これまで頑なに「黒字財政」を死守してきたドイツ政府の動向です。経済学でいう「財政出動」とは、政府が公共事業や減税を通じて市場にお金を流し込み、景気を下支えする政策を指しますが、ドイツは伝統的に借金を嫌う姿勢を貫いてきました。しかし、民間消費や輸出が冷え込む現状において、政府による積極的な投資を求める声は、国内外で日増しに強まっていくでしょう。
編集部としての見解ですが、今回の危機は単なる一時的な景気循環ではなく、自動車産業の構造変化を伴う「構造的な不況」の側面が強いと感じます。EV(電気自動車)への急速なシフトを迫られる中で、従来のエンジン技術で培った優位性が失われつつある点も見逃せません。ドイツが再び輝きを取り戻すためには、従来の厳格な財政規律を緩めてでも、次世代インフラや技術革新への大胆な資金投入を決断する勇気が必要なのではないでしょうか。
輸出依存度の高いドイツの変調は、日本にとっても決して他人事ではありません。世界的なサプライチェーン(製品が消費者に届くまでの供給網)を通じて、この冷え込みは波及していくはずです。2019年09月25日現在、世界景気の後退リスクはかつてないほど現実味を帯びており、私たちは欧州の心臓部から発せられるSOSサインを、より慎重に見守っていく必要があるでしょう。
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