ピュリツァー賞受賞作『レス』が描く、50歳のゲイ・セクシャリティと「失恋逃避行」の真実

かつての恋人が別の人と結婚する。そんな報せを受け取ったとき、あなたならどう振る舞うでしょうか。2019年10月12日現在、読書界で熱い視線を集めているアンドリュー・ショーン・グリア氏の小説『レス』は、そんな人生の袋小路に立たされた中年の小説家、アーサー・レスを主人公に据えた物語です。彼は元恋人の結婚式という残酷な現実から逃げ出すため、世界各地から届いていた気が進まない仕事の依頼をすべて承諾し、無謀な世界一周の旅へと飛び出します。

サンフランシスコを起点に、ニューヨーク、イタリア、ドイツ、そして日本の京都まで巡るこの旅は、一見すると滑稽な「大人の現実逃避」に映るかもしれません。SNS上では「レスの不器用さが愛おしい」「逃げ出したくなる気持ちに共感する」といった声が相次いでおり、誰もが抱える心の弱さを代弁しているようです。本作は単なる旅行記ではなく、50歳という人生の節目を迎える男性が、自身のセクシャリティや過去の亡霊と向き合う、極めて誠実なセルフ・ディスカバリーの物語といえるでしょう。

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中年の孤独とセクシャリティが織りなす「普遍的な愛」のかたち

本作の核心は、ゲイであるレスの恋愛模様が驚くほど美しく、かつ繊細に描写されている点にあります。ここでいう「セクシャリティ」とは、個人の性的指向や性のあり方を指す言葉ですが、著者はそれを特殊な枠組みに閉じ込めません。誰かを想うときの高揚感や、不意に訪れる駆け引きの緊張感は、性別を超えて読み手の胸に深く突き刺さります。特に、乗り継ぎの合間に立ち寄ったパリで出会う男性、ハビエルとの静かな交流は、本作を象徴する名シーンとして記憶に刻まれるはずです。

若さを失い、取り戻せない時間を背負った者同士が交わす言葉には、深い哀しみが満ちています。しかし、その哀しみこそが、彼らが生きてきた証でもあるのでしょう。著者のグリア氏自身もゲイであることを公言しており、作中で語られる「エイズによって失われた世代」の空白についての記述には、当事者としての切実な響きが伴っています。50歳を超えてなお、未知の領域を探索し続ける彼らの姿は、フィクションの枠を超えて私たちの現実に力強く語りかけてくるのです。

私自身、この作品を読んで感じたのは、絶望とユーモアは常に表裏一体であるという事実です。一見すると軽妙なエンターテインメントの形式を取りながら、実は緻密に計算された「語り手」の仕掛けが施されており、読者を最後まで飽きさせません。読み進めるほどに深まる謎と、結末で待ち受ける鮮やかな驚きは、まさに「上質な読書体験」そのものです。レスが旅の果てに見つけるものは何なのか。2019年の今、手に取るべき最も美しく切ない一冊だと確信しています。

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