2019年6月19日、世界の金融市場は、アメリカのドナルド・トランプ大統領と、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁との間で繰り広げられた「通貨安」を巡る激しい応酬に注目しました。事の発端は、ポルトガルのシントラで2019年6月18日午後に開かれた討論会でのドラギ総裁の発言です。総裁は、物価上昇の目標を達成するために「あらゆる手段を用いる準備がある」と改めて強調し、世界経済の停滞感が強まる中で、追加の金融緩和に前向きな姿勢を明確に示したのです。
このドラギ総裁の「追加緩和を示唆する」発言を受け、外国為替市場ではユーロが大きく値を下げ、ユーロ安ドル高へと進みました。これに対し、トランプ大統領はすぐさま自身のツイッターで反応し、「彼(ドラギ氏)はユーロを下落させており、これは米国との競争を不当に簡単にしている」と、ECBが自国通貨を意図的に安く誘導しているかのような激しい批判を浴びせました。この米欧間の通貨を巡る火花は、世界的な景気減速への懸念が高まる中、貿易摩擦に続き、金融政策の領域でも対立が深まっている現状を浮き彫りにしています。
このトランプ大統領からの直接的な批判に対し、ドラギ総裁は真っ向から反論しました。総裁は「我々は為替相場を金融政策の目標にはしていません」と明言し、ECBの金融政策は、あくまでユーロ圏内の物価の安定、すなわちインフレーションを目標水準に近づけるために行われているのであって、他国の通貨に対して自国通貨を安く誘導する、いわゆる「通貨安誘導」が目的ではないと主張しています。主要7カ国(G7)の間では、為替相場の水準を狙った通貨の売り介入は容認されないものの、国内の物価安定を目的とした金融緩和は認められるというのが共通認識とされています。
SNS上では、この一連のやり取りに対し、「ECBの行動は国内経済の理論に基づいている」と擁護する声がある一方で、「トランプ大統領は、自分はアメリカの中央銀行であるFRBに利下げを要求しておきながら、他の中央銀行の緩和策を批判するのはダブルスタンダードではないか」「これは極めてご都合主義的に見える」といった厳しい意見が多く見受けられました。特に、トランプ政権が自国の利下げを求めるスタンスと、他国の金融緩和を非難するスタンスとの矛盾は、多くの読者の間で議論の的となっているようです。
私見を述べさせていただきますと、世界経済が減速の兆しを見せる中で、各国・地域が自国の経済を支えるために金融緩和へと動くのは自然な流れと言えます。しかし、それが結果として為替市場に影響を与え、通貨安競争の様相を呈してしまうのは避けたい事態です。各国・地域の中央銀行がそれぞれのマンデート(使命)に基づいて行動している中、一国の指導者がそれを一方的に「不当」と断じる姿勢は、国際的な協調という観点から懸念が残ります。特に、トランプ大統領が主張するように、金融政策によって市場を思い通りに操ろうとしても、為替市場は本来極めて「移り気」な存在です。
実際、ECBが2019年6月6日に利上げ時期の先送りを決めた際には、市場は緩和姿勢が不十分だと判断し、一時的にユーロ高が進むという、ECBの意図に反する動きも見られました。しかし、今回のドラギ総裁のより踏み込んだ追加緩和の示唆に対しては、市場は素直にユーロ安へと反応しました。ドラギ総裁自身も、市場の反応の予測の難しさを理解しており、「市場はとても頻繁に、そしてとても唐突に見方を変える」と語り、目先の相場変動に一喜一憂する考えはないことを示しています。世界経済の先行きの不透明感が増す中、各国・地域の中央銀行が次にどのような「刺激策」を打ち出すのか、そしてそれに対し為替市場がどのように反応するのか、引き続き目が離せない状況が続くでしょう。
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