キャリアを大切にするビジネスパーソンにとって、育児休暇は喜ばしい一方で「仕事から長く離れる不安」がつきまとうものです。そんな悩みを解決する画期的な取り組みとして、米国系製薬大手のMSDが展開する「ちょっとだけ勤務」という制度が大きな注目を集めています。これは育休期間中であっても、必要に応じて臨時に業務に携わることができる仕組みで、2017年10月から本格的に運用が開始されました。
この制度の最大の特徴は、育休取得の心理的な壁を低くし、職場へのスムーズな復帰を強力にバックアップする点にあります。もともとは2014年10月の法改正により、育児休業給付金を受給しながらでも「月80時間以下」であれば就労が可能になったことが背景にあります。MSDはこのルールの変化をいち早く捉え、休業中の社員が会社の動きを把握し続けられるよう、2年間の試験期間を経て正式な制度として確立させたのです。
現場では、特にMRと呼ばれる「医薬情報担当者」の間でこの制度が重宝されています。MRとは、医師や薬剤師などの医療従事者に対して自社の薬に関する専門的な情報を提供し、普及を図る重要な専門職のことです。情報のアップデートが激しい医療の世界では、数ヶ月のブランクが大きな痛手になりかねませんが、重要な会議や引き継ぎに少しだけ参加することで、復職後の戸惑いを最小限に抑えることが可能になります。
SNSなどでは「休むなら完全に休みたい」という声がある一方で、「完全に遮断されると浦島太郎状態になるのが怖い」という切実な意見も多く見られます。2015年夏、新薬発売という繁忙期に第1子の誕生を迎えた男性社員の事例は、まさにこの不安を象徴するものでした。周囲への負担を懸念し育休を躊躇していた彼が、数時間だけの臨時勤務を組み合わせることで1ヶ月の休暇を実現したことは、社内に大きな希望を与えました。
この成功体験が呼び水となり、2017年には34%だった男性の育休取得率が、2018年には43%にまで跳ね上がったというから驚きです。以前は1割にも満たなかった男性の育休参加が、この柔軟な仕組みによって当たり前の風景へと変わりつつあります。育児という思い通りにいかない経験を積むことは、巡り巡って仕事における創造性や柔軟な発想力を養うことにも繋がると、同社の人事部門は確信しています。
もちろん、男性の平均取得期間が約1週間と依然として短いことは今後の課題でしょう。しかし、柔軟に働ける選択肢があるだけで、キャリアの継続を諦めずに済む人が増えるのは間違いありません。今後はこの「ちょっとだけ勤務」の考え方を介護休暇にも広げていく構想があるそうです。ライフステージの変化に寄り添い、柔軟に働き方をカスタマイズできる環境こそが、これからの企業に求められる真の姿ではないでしょうか。
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