広大な海の世界に、通信技術の新たな夜明けが訪れようとしています。NTTは2019年11月26日、海中における無線通信をこれまでの100倍という圧倒的なスピードに進化させる革新的な技術を発表しました。このブレイクスルーにより、従来は不可能とされていた海中からのリアルタイムな映像伝送がついに現実味を帯びてきたのです。
SNS上では「ついに水中でも動画が見られるのか」「海底調査の効率が劇的に変わりそう」といった驚きと期待の声が広がっています。これまで海の中は電波が届きにくく、デジタル社会から取り残された「情報の孤島」とも言える場所でした。しかし、この新技術がその壁を打ち破り、水中作業のあり方を根本から変えてしまうかもしれません。
常識を覆す「音波」の活用と驚異の1.2Mbps
水中では電波がすぐに弱まってしまうため、魚群探知機のように「音波」を使うのが一般的です。しかし、従来の音波通信は毎秒数十キロビット程度と非常に低速で、数秒おきに静止画を送るのが精一杯でした。これに対し、NTTが開発した新技術は毎秒1.2メガビットという驚異的な高速化に成功しており、低解像度ながら動画をスムーズに送ることが可能です。
近年では光レーザーを用いた高速通信も注目されていますが、海水の濁りによって通信距離が左右されるという弱点がありました。今回の技術は、濁りに強い音波の利点を活かしつつ、通信帯域を広げることで速度の問題を解決しています。具体的には、これまで利用されていた周波数よりも高い「数百キロヘルツ帯」を活用することで、ベースとなる速度を一気に10倍まで引き上げました。
マルチパスを「捨てる」という逆転の発想
さらなる高速化の鍵を握るのが、スマートフォンなどで馴染み深い「MIMO(マイモ)」という技術です。これは複数のアンテナを同時に使ってデータを送受信する仕組みを指します。通常、空気中では建物などに反射して届く「マルチパス(多重経路)」が多いほど通信効率が上がりますが、海中では波打つ海面による反射がノイズとなり、通信エラーを頻繁に引き起こす原因となっていました。
そこでNTTの研究チームは、あえてこの「マルチパスをすべてカットする」という、従来の無線通信の常識を覆す大胆な手法を選択しました。この決断が功を奏し、安定した高速通信を実現できたのです。研究員の藤野洋輔氏は、この技術の組み合わせによってトータル100倍の高速化が可能になると語っており、その自信の深さが伺えます。
編集者としての視点で見れば、この「引き算の美学」とも言えるアプローチには驚かされます。最新技術をそのまま持ち込むのではなく、環境に合わせて不要な要素を削ぎ落とす決断が、技術的な壁を突破する鍵となりました。2022年から2023年頃の実用化を目指すというスケジュールも、非常に現実的で期待が高まります。
海底ケーブル保守や船舶検査に革命を
この技術が実用化されれば、産業界に与えるインパクトは計り知れません。現在は海底ケーブルの点検や船底の調査に、長いケーブルでつながれた有線ロボットが使われていますが、これが無線化されるだけでコストは劇的に削減されるでしょう。水中ドローンが自由に動き回り、高画質な映像を地上へ送り届ける未来はすぐそこまで来ています。
私たちの知らない深海の世界が、この「水中Wi-Fi」とも呼ぶべき技術によって可視化される日は遠くないはずです。インフラ維持の効率化だけでなく、未知の海洋資源探査や環境保護など、人類が海と向き合うための強力な武器になることは間違いありません。日本が誇る通信技術の底力が、世界の海をアップデートしていく様子を今後も注視していきたいと思います。
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