「一体何のために働いているのだろう」と、ふと虚無感に襲われる瞬間はありませんか。これまで情熱を注いできたはずの仕事や趣味が、ある日突然、色あせて見えることがあります。そんな心の停滞期を乗り越えるためのヒントが、2019年11月09日のコラムに記されていました。精神科医の高野知樹先生が提唱する、私たちが自分らしく健やかに過ごすために不可欠な「3つの感覚」について、編集部の視点を交えて分かりやすく紐解いていきましょう。
SNS上では「毎日がルーティン化して、自分の存在意義が見えない」といった切実な声が散見されます。心が折れそうな時、まず確認したいのが「居場所感」です。これは、その場所に自分が存在することを無条件に許されているという安心感のことです。例えば、実家に帰省した際や気心の知れた友人と過ごす時に感じる、あの「ほっとする感覚」こそが、私たちの精神的な土台となります。この土台が揺らいでいると、どれほど成果を出しても心は満たされません。
次に重要なのが、自分には果たすべき役割があると感じる「出番感」です。2019年、日本中を熱狂させたラグビーワールドカップを思い出してください。フィールドで戦う選手はもちろん、ベンチで待機する選手たちも、いつ必要とされるか分からない緊張感の中で自らの役割を全うしていました。たとえ試合に出る機会がなかったとしても、「自分が必要とされている」という自覚があるだけで、人は前を向く強さを手に入れられるのです。
そして3つ目は、漫画家・赤塚不二夫さんの名セリフ「これでいいのだ」に象徴される「肯定感」です。期待していたイベントが雨で中止になるなど、物事が予定通りに進まない場面は多々あります。しかし、そこで腐らずに「空いた時間で別のことができたから、結果オーライだ」と現状を受け入れる姿勢が大切です。理想通りではなくても、今の自分や環境を認めることで、私たちは次の一歩を踏み出すエネルギーを充電できるのでしょう。
これらの感覚は、心理学者のアブラハム・マズローが提唱した「自己実現理論(マズローの5段階欲求)」とも深く関わっています。これは人間の欲求を5つの階層で捉えたモデルです。ピラミッドの底辺には、食事や睡眠といった「生理的欲求」、その上に身の安全を求める「安全欲求」があります。さらに、集団に属したい「社会的欲求(所属欲求)」、他者から認められたい「承認欲求」、そして自分らしくありたい「自己実現欲求」へと続きます。
私たちは往々にして、上位の「承認」や「自己実現」ばかりを追い求めがちです。しかし、高野先生は「一つ下の段階にある恩恵を再確認すること」の重要性を説いています。病気になって初めて健康の有り難みに気づくように、当たり前だと思っている安全や居場所こそが、実は最も尊いものです。成果が出なくて焦る時こそ、まずは今ある「当たり前の幸せ」を丁寧に吟味することが、心の健康を守る近道になるのではないでしょうか。
「最近ワクワクしない」と感じるのは、あなたがそれだけ高い目標に向かって努力している証拠かもしれません。そんな時こそ、足元の「居場所感」に目を向けてみてください。今の環境が与えてくれている恩恵を噛みしめることで、失われていた「出番感」や「肯定感」が自然と湧き上がってくるはずです。無理に自分を鼓舞するのではなく、まずは自分を取り巻く優しい環境に感謝することから始めてみるのが、今の時代には合っていると感じます。
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