2019年11月9日にベルリンの壁崩壊から30周年という大きな節目を迎えましたが、世界が当時描いたバラ色の未来予想図は、今や激しい嵐にさらされています。特に深刻なのが、国際貿易の番人である世界貿易機関(WTO)が直面している存亡の危機です。2019年12月10日には、紛争解決の最終審にあたる上級委員会の委員任期が切れ、最低限必要な人数を割り込むことで機能不全に陥るリスクが目前に迫っています。
1995年に誕生したWTOは、冷戦終結後の「自由貿易こそが世界を豊かにする」という理想の象徴でした。かつての共産圏や中国もこの枠組みに加わり、世界の平均関税率は1994年の約16%から2017年には5%台まで劇的に低下しました。日米欧の先進国は、経済が発展すれば中国などの国々も自然と民主化の道を歩むはずだと楽観視していましたが、30年が経過した2019年現在、その期待は無残にも打ち砕かれています。
SNSでは「自由主義の敗北なのか」「強権国家の方が成長が早いのは皮肉だ」といった悲観的な意見が目立ちます。実際にデータを見ると、近年は自由度が低い国ほど高い成長率を記録する傾向にあり、その筆頭が中国です。習近平国家主席のもとで統制を強める中国は、独自の経済圏「一帯一路」を推進し、民主主義とは異なる「国家資本主義」という強力なモデルを世界にせめぎ合わせています。
揺らぐ民主主義の足元と「歴史の再生」への問い
一方で、冷戦の勝者であったはずの西側諸国も、内側から崩壊の兆しを見せています。米国ではトランプ政権が国際協調に背を向け、自国第一主義を貫いています。欧州でも英国のEU離脱を巡る混迷が続き、かつての結束は失われつつあります。冷戦直後にフランシス・フクヤマ氏が提唱した「自由民主主義の勝利によって歴史は終わった」という言説は、今や遠い過去の神話のように感じられます。
ここで言う「ポピュリズム(大衆迎合主義)」とは、複雑な問題を単純化し、人々の不満を煽ることで支持を得る政治手法を指します。現代の民主主義はこの荒波に飲み込まれ、制度そのものが疲弊していると言わざるを得ません。ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授が説くように、今私たちに必要なのは「歴史の終わり」ではなく、自由や知識の価値を再定義する「歴史の再生」ではないでしょうか。
私は、現在の混乱を単なる衰退と捉えるべきではないと考えます。むしろ、格差の拡大や社会の分断といった、自由主義が長年放置してきた宿題を突きつけられている時期なのです。強権政治が効率的に見える瞬間があっても、個人の尊厳と自由を基盤とする社会こそが、人間が真に豊かに生きられる場所であるはずです。分断を乗り越える新たな社会モデルを示せるか、民主主義陣営の覚悟が今、厳しく問われています。
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