巨匠マーティン・スコセッシ監督が、映画史に刻まれる豪華キャストを揃えて放つ最新作『アイリッシュマン』が、いよいよ2019年11月15日から劇場公開を迎えます。本作はチャールズ・ブラントによるノンフィクションを原作に、老境に達した殺し屋の回想を通じて、アメリカ合衆国が隠し続けてきた戦後の血塗られた裏面史を鮮烈に描き出しています。
物語の主軸となるのは、ロバート・デ・ニーロ演じるフランク・シーランです。彼はアイルランド系でありながら、イタリア系マフィアの重鎮ラッセル・バッファリーノに見込まれ、その冷徹な腕前で「アイリッシュマン」という異名を轟かせました。第2次世界大戦での従軍経験で培ったイタリア語と、感情を排して任務を遂行する姿には、観る者を射すくめるような静かな恐怖が漂っています。
SNS上では、製作発表時から「ついにアル・パチーノとデ・ニーロ、そしてジョー・ペシが同じ画面に収まるのか」と、往年の映画ファンを中心に熱狂的な期待が寄せられてきました。ネットフリックスが巨額の予算を投じて実現させたこの夢の共演は、単なる同窓会的な作品ではなく、スコセッシ監督が自身の作家性を極限まで突き詰めた集大成としての風格を備えています。
全米を震撼させた謎に迫る!ジミー・ホッファ失踪事件の衝撃
本作の大きな謎として描かれるのが、1975年7月30日に突如として姿を消した全米トラック運転手組合委員長、ジミー・ホッファの失踪事件です。アル・パチーノが演じるホッファは、当時の米国で大統領に次ぐ権力を持つと言われた実力者でした。彼とマフィア、そして政界の歪な癒着が、ケネディ大統領暗殺事件の背後にある武器供与などの疑惑と絡み合い、物語は加速していきます。
劇中では「マフィア」という言葉が多用されますが、これは特定の犯罪組織を指す専門用語であり、本作では組織の掟や家族の絆が、時に社会の正義よりも優先される特異な倫理観として描かれています。スコセッシ監督は、ニューヨークのクイーンズで育ち、カトリック信仰と腐敗が隣り合わせの環境を実体験として知っているからこそ、その内部にある葛藤や非情な暴力を極めてリアルに描写できるのでしょう。
個人的な視点になりますが、本作の真の魅力は派手なアクションではなく、組織に忠実であり続けた男が失う「家族の信頼」にあると感じます。フランクが良き父親を自認する一方で、娘のペギーが父の裏の顔を察知し、彼が最も敬愛するホッファを慕う姿は、あまりにも皮肉で胸を締め付けられます。男たちの権力闘争の裏側で、静かに壊れていく家庭の風景こそが、暴力の本質を突いているのではないでしょうか。
上映時間は3時間29分という長尺ですが、2001年9月11日に失われたワールドトレードセンターのツインタワーが夜闇に輝くラストシーンに至るまで、一時も目が離せません。スコセッシ監督が万感の思いを込めて描き出した、米国史の光と影。この重厚な人間ドラマを、ぜひ劇場のスクリーン、あるいは自宅の特等席でじっくりと堪能してください。
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