20世紀のバレエ史に燦然と輝く伝説的な2つの傑作。そこに、現代ダンス界の至宝・勅使川原三郎氏による待望の委嘱新作が加わるという、まさに奇跡のような三本立てが実現しました。東京バレエ団が2019年10月27日に東京文化会館で披露したこの公演は、世界中のどこへ出しても恥ずかしくない、彼らの「真骨頂」とも呼べるハイレベルな内容です。
幕開けを飾ったのは、ジョージ・バランシン振付の『セレナーデ』でした。1935年に誕生したこの作品は、それまでの過剰な装飾を排し、音楽とステップだけで魅せる「ネオ・クラシック」という新境地を切り拓いた記念碑です。チャイコフスキーの調べに乗せて次々と形を変える女性群舞の美しさは、SNSでも「万華鏡のように幻想的」と大きな注目を集めました。
特にソリストを務めた秋山瑛さんのパフォーマンスは、観客の視線を釘付けにするほど鮮烈だったといえるでしょう。舞台に現れた瞬間に空間が華やぐような圧倒的なスピード感と、気品あふれる艶やかさは、まさに選ばれしダンサーにしか出せない輝きを放っていました。洗練された究極の美学が、そこには確かに存在していたのです。
本能を揺さぶる官能の嵐!ベジャールが描く『春の祭典』
続いて披露されたのは、1959年に初演されたモーリス・ベジャール振付の『春の祭典』です。ストラヴィンスキーの原始的なリズムに乗せ、男性ダンサーたちの躍動する肉体が「生の本能」を爆発させます。従来の優雅なバレエのイメージを覆す、野生動物のような力強さと官能性がステージを支配し、会場は独特の熱気に包まれました。
生贄となる個体を演じた秋元康臣さんの表現力には、多くのファンから「魂を削るような踊りに震えた」という絶賛の声が寄せられています。極限まで追い詰められ、憔悴しながらも本能を剥き出しにするその姿は、まさに圧巻の一言に尽きます。肉体の限界に挑むような壮絶なダンスは、観る者の心に深い爪痕を残したに違いありません。
私自身、バレエとは「美の極致」であると同時に、こうした「人間の生々しさ」を昇華させる芸術だと改めて実感しました。ベジャールが描こうとした、理屈を超えた生命の力強さは、現代を生きる私たちに、忘れていた野生の記憶を呼び覚ましてくれるような気がしてなりません。男性群舞の肉体美は、単なる造形美を超えた崇高さを感じさせます。
勅使川原三郎の新作『雲のなごり』が描く無限の広がり
そして本公演の目玉である、勅使川原三郎氏による新作『雲のなごり』がベールを脱ぎました。武満徹氏の音楽を用い、藤原定家の和歌に着想を得たこの作品は、まるで舞台上に一幅の絵画が現れたような静謐さに満ちています。ゲストの佐東利穂子さんや沖香菜子さんらが織りなす踊りは、時間と空間の概念を溶かしていくようでした。
「間(ま)」を重んじる日本的な感性と、高速で空間を切り裂く現代的なムーブメントが融合し、舞台には不思議な真空状態が生まれます。写実的な描写を一切排除しながらも、観る者の脳裏には「花の香り」や「遠い風の音」が鮮明に浮かび上がるのです。これこそが、言葉を超えたダンスという芸術が到達できる最高峰の表現といえるでしょう。
2019年11月13日現在、この三本立てはバレエファンのみならず、あらゆる芸術愛好家の間で大きな話題となっています。古典から現代までを縦横無尽に踊りこなす東京バレエ団の底力は、まさに日本の誇りです。伝統を守りながらも常に革新を求め続ける彼らの挑戦を、私たちはこれからも熱い視線で見守り続けたいと思います。
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