日本の化学産業が今、熱烈な視線を向けているのは南アジアの巨大市場です。塩化ビニール樹脂、通称「塩ビ」の海外出荷が目覚ましい勢いで伸びています。塩ビ工業・環境協会が発表したデータによれば、2019年09月の輸出量は6万1849トンに達し、前年の同じ時期と比べて37.3%もの大幅なプラスを記録しました。これで12カ月連続の前年超えとなり、業界の勢いはとどまるところを知りません。
この快進撃の主役を担っているのは、他でもないインドです。同国では水道管や電線保護管といった生活基盤、いわゆるインフラ整備に向けた需要が極めて堅調に推移しています。日本のメーカー各社は、比較的安値で取引される中国市場を横目に、より高い価格での販売が期待できるインドへの供給を戦略的に強化しているのです。SNS上でも「日本の素材メーカーの底力を見た」といった驚きの声が上がっています。
インド総選挙後の投資加速と価格変動のメカニズム
なぜここまでインドで塩ビが必要とされているのでしょうか。大きな転換点となったのは、2019年05月に実施されたインド連邦下院総選挙です。選挙後にモディ政権がさらなるインフラ投資を加速させるとの観測が広がり、国内使用量の約半分を輸入に頼るインドでは、確保に奔走する動きが強まりました。この期待感が相場を押し上げ、2019年09月には輸出価格が約1年ぶりの高値を記録するに至っています。
一方で、価格は常に一本調子で上がるわけではありません。2019年11月積みの価格については、1トンあたり930ドルと前月比で30ドルの値下がりを見せました。半年ぶりの下落ではありますが、これは急激な上昇に対する一時的な調整局面といえるでしょう。市場関係者の間では、この価格変動を冷静に見守りつつも、依然として底堅いインドの需要を確信する見方が大勢を占めているようです。
日本勢を後押しする関税制度の劇的な変化
日本の輸出競争力を劇的に高めたのは、インド政府による関税ルールの見直しです。2019年06月、インドは不当な安売りを防ぐ「アンチダンピング関税」の対象から日本を除外しました。さらに2019年07月からは、中国や韓国、台湾からの輸入品に対して関税を10%へと引き上げています。対照的に、経済連携協定(EPA)を結んでいる日本は1.4%という極めて低い税率が維持されました。
この税制上の優位性は絶大です。競合する台湾の大手企業よりも販売価格が50ドルから60ドルほど高く設定されていても、関税を含めた最終的なコストでは日本産が十分に太刀打ちできる状況が生まれています。財務省の貿易統計を見ても、2019年09月の塩ビ輸出全体に占めるインドの割合は67%まで上昇しており、まさに「インド一本足打法」とも呼べる集中投資の構図が鮮明になりました。
編集部が読み解く「素材大国・日本」の戦略的価値
筆者の視点から申し上げれば、今回の塩ビ輸出の活況は、単なる一時的なブームではなく、日本の外交努力と技術信頼性が結実した結果だと評価しています。中国という巨大市場の不透明感が増す中で、インドという成長エンジンを早期に捉え、EPAという枠組みを最大限に活用した各社の経営判断は、極めて賢明です。高品質な日本の樹脂がインドの都市化を支える現状は、誇らしいニュースといえます。
今後は価格の調整局面をいかに乗り越え、安定した供給網を維持できるかが焦点となるでしょう。SNSでは「特定国への依存」を懸念する声も一部で見られますが、中国市場よりも100ドル前後も高く売れる現状を見れば、インドシフトは必然の選択です。2019年の後半戦に向けて、この「塩ビ特需」が日本の化学メーカーの業績をどこまで押し上げるのか、引き続き目が離せそうにありません。
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