2019年11月12日、ニューヨークの熱気あふれる会場で、トランプ米大統領は世界が注目する米中貿易交渉の進展について口を開きました。「第1段階の合意は署名が間近に迫っている」という力強い言葉は、長引く貿易摩擦に揺れる市場へ一筋の光を投げかけています。現在、米中両国は農業や金融分野に焦点を絞った部分的な合意を目指しており、11月中の首脳会談開催を視野に調整が続いているようです。
しかし、トランプ大統領の姿勢にはアメとムチが混在しています。交渉が進展していると評価する一方で、「もし納得のいく取引ができなければ、関税を大幅に引き上げることになる」と、中国に対して強い警告を発することも忘れていません。これは、単なる妥協を許さないという同氏のディール(取引)の哲学が色濃く反映された場面と言えるでしょう。強気な姿勢を崩さないことで、より有利な条件を引き出そうとする狙いが見て取れます。
ここで言う「関税」とは、輸入品に対して国が課す税金のことで、本来は自国産業を守るための盾としての役割を持ちます。トランプ政権は12月中旬に「追加関税第4弾」の発動を予定していますが、もし部分的な合意が成立すれば、この発動は先送りされる公算が大きくなっています。SNS上でも「クリスマス商戦前にコスト増が避けられるかも」といった期待の声がある一方で、「首脳会談の場所が決まらないのは不安」という慎重な意見も飛び交っています。
大統領選を見据えた経済アピールとFRBへの要求
今回の講演には、2020年の次期大統領選を1年後に控えた実績アピールの側面も強く感じられました。トランプ大統領は、2016年の当選以降に株価(ダウ工業株30種平均)が50%以上も上昇したことや、失業率が50年ぶりの低水準であるという具体的な数字を並べ、自身の経済政策「トランプノミクス」の成功を強調しています。実体経済が堅調であることを示すことで、再選への足場固めを着々と進めている印象です。
興味深いのは、中央銀行にあたる米連邦準備理事会(FRB)への率直な不満を漏らした点でしょう。「利下げの判断が遅すぎる」と苦言を呈し、FRBが協調すれば株価はさらに25%上がると断言する姿からは、景気刺激に対する並々ならぬ執念が伺えます。独立性を重んじる金融当局への介入とも取れる発言ですが、投資家や経営者層を味方につけるための高度なパフォーマンスという側面もあるのかもしれません。
対立する民主党候補が掲げる増税案を「社会主義的だ」と断じる場面もあり、ウォール街の関係者に向けて「私が大統領である限り米国を社会主義にはさせない」と強く訴えかけました。経済メディアの編集者としての視点で見れば、トランプ大統領は「不透明な貿易戦争」というリスクを、自身の強力なリーダーシップを演出するための舞台装置として巧みに利用しているようにも感じられます。
米中合意が成立すれば、世界経済にとって大きな安心材料となるのは間違いありません。しかし、トランプ大統領が求める「米国の労働者や企業に利益がある形」での決着が、果たして中国との間でどこまで折り合えるのか、その瀬戸際の攻防から目が離せません。大国同士の駆け引きが、私たちの日常生活やマーケットにどのような変化をもたらすのか、今後も首脳同士の対話の推移を注視していく必要があるでしょう。
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