私たちの生活に欠かせないiPhoneを提供する米アップル社が、国際政治の大きな渦に飲み込まれています。2019年11月28日までに、同社は地図や天気予報アプリにおいて、ウクライナ南部のクリミア半島を「ロシア領」として表示する仕様変更を行いました。これはロシア下院からの強い要請を受けたものであり、現在ロシア国内で利用する場合に限り、クリミアの都市名とともに「ロシア」という国名が表示されるようになっています。
この対応の背景には、ロシアが2014年3月に断行したクリミア半島の併合宣言があります。ロシア側は、自国の法律に従わない表記は違法であると主張し、2019年5月頃からアップルに対して修正を迫っていました。同国のピスカリョフ議員は、2019年11月27日に「アップルは義務を果たした」と満足げな声明を発表しましたが、この動きは自由なテクノロジーの在り方に一石を投じる形となっています。
SNS上では、このニュースに対して「巨大企業が国家の圧力に屈した」という批判の声が相次いでいます。特に、国際社会の多くがロシアによる一方的な併合を認めていない現状では、アップルの決断は政治的な妥協と受け止められがちです。一方で、ロシア国内でビジネスを継続するためには、現地の法律を無視できないという現実的な難しさを指摘する意見も見られ、テクノロジー企業の「中立性」の限界が露呈した格好です。
ウクライナの憤りと国際社会が抱く危機感
当然ながら、領土を奪われた形のウクライナ政府は激しい怒りを隠せません。プリスタイコ外相は「心の一部を最悪の敵に盗まれた」という痛烈な言葉で、アップルの対応を非難しました。この「併合」という言葉は、本来ある国の領土を別の国が武力などを背景に自国へ組み込むことを指しますが、国際法上の正当性が認められないケースが多く、今回の表示変更はそのデリケートな境界線に踏み込む行為といえるでしょう。
他国の閣僚からも懸念が表明されており、リトアニアのリンケビチュウス外相は2019年11月28日、自身のSNSで「クリミアは占領されたウクライナの領土だ」と改めて強調しました。同氏はアップルに対して修正を求めていますが、一度変更されたアルゴリズムを戻すのは容易ではないでしょう。特定の国だけで地図の書き換えを行う手法は、デジタル空間における情報の分断を加速させる危険性を秘めています。
私個人の視点として、アップルのようなプラットフォーマーが特定の国家の政治的意図を反映させることは、非常に危うい先例になると感じます。以前にも香港の抗議活動に関連するアプリを中国政府の意向で削除した経緯があり、企業の利益と倫理のバランスが問われています。地図は本来、事実を示すべき鏡であるはずですが、それが国家の「声」によって書き換えられるとき、私たちは何を信じればよいのでしょうか。
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