2019年11月30日現在、日本の株式市場では驚くべき光景が広がっています。製造業を筆頭に、多くの企業が2019年4月から9月期の決算発表で通期予想を引き下げ、下方修正の総額は2兆円を突破しました。2020年3月期の純利益は前期比で1割も減少する見通しですが、日経平均株価は年初来の高値圏を維持しています。この不思議な現象の裏側には、利益が減っても株主への還元を惜しまない、企業の強い意志が隠されているのです。
通常、業績が悪化すれば配当を減らす「減配」が一般的ですが、今回は下方修正を行いながらも増配に踏み切る企業が96社も現れました。その代表格が日本電産です。同社は2020年3月期の連結純利益予想を350億円も引き下げ、一転して減益となる見通しを発表しました。しかし、永守重信会長は年間配当を5円積み増し、前期比で10円の増配を決定したのです。この決断は、投資家の間でも「攻めの姿勢だ」と大きな話題を呼んでいます。
日本電産が強気な姿勢を崩さない理由は、今回の下方修正が将来への先行投資に起因しているからです。電気自動車、いわゆるEVの心臓部となる部品の受注が急増しており、そのための投資が一時的に利益を圧迫しているに過ぎません。永守会長は「配当増額は自信の表れ」と断言しており、2021年3月期以降の劇的な業績回復を確信しているのでしょう。SNSでも「目先の数字に囚われない経営判断が素晴らしい」といったポジティブな声が目立ちます。
財務の余力が支える「逆行増配」のメカニズム
一方で、三菱商事のような資源大手も独自の戦略を展開しています。同社は資源価格の下落という逆風を受け、2020年3月期の純利益予想を前期比12%減の5200億円へと800億円下方修正しました。それにもかかわらず、年間配当は7円増やす方針を堅持しています。これは、企業の収益力だけでなく、配当の原資となるキャッシュフロー、つまり現金の流れに余裕があることを示しています。利益が目減りしても、支払う資金力は十分に備わっているのです。
ここで注目したい指標が「PER」です。PER(株価収益率)とは、株価が1株当たりの利益の何倍まで買われているかを示す尺度で、現在の市場全体では約14倍程度となっています。業績が下方修正される中で株価が支えられているのは、投資家が「今の減益は一時的であり、配当を維持・増額できるだけの財務基盤がある」と信頼を寄せているからでしょう。企業の株主還元に対する意識が、以前とは明らかに変わってきていることが伺えます。
編集者としての私の視点では、この「下方修正下の増配」は日本企業の成熟を示すポジティブな変化だと捉えています。かつての日本企業は、少しの赤字で一気に縮こまる傾向にありましたが、今は中長期的な成長ビジョンと強固な財務体質を武器に、市場との対話を楽しんでいるかのようです。投資家にとっては、一時的な業績の波に一喜一憂せず、企業の「稼ぐ力」の本質を見極める絶好の機会が訪れていると言えるのではないでしょうか。
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