化粧品やサプリメントで知られるファンケルの会長、池森賢二氏が2019年11月30日、自らの歩みを振り返る「私の履歴書」の連載を締めくくりました。池森氏は今、長年守り続けてきた経営の一線を退き、新たな人生のステージへと足を踏み出そうとしています。82歳という年齢を感じさせないその瞳が向いているのは、未来を担う若者たちの活躍の場と、社会的な支援を必要とする人々への温かな眼差しです。
かつて池森氏は、シニアゴルフの祭典「ファンケルクラシック」の隆盛を支えました。2001年の開始当初は2400人ほどだった観客数は、今や2万人を超えるビッグイベントへと成長を遂げています。中嶋常幸プロとの心温まる交流や、シニアツアー全体の活性化に寄与した自負もありながら、池森氏の活動はスポーツの枠に留まりませんでした。50歳の時に訪れた重度障がい者施設での出会いが、彼の価値観を根底から変えたのです。
「1000人に1人、障がいを持って生まれる子を、残りの999人が支えるのは当然」という言葉に衝撃を受けた池森氏は、すぐに行動を開始しました。当初は戸惑いもあったと率直に明かしていますが、次第に慈しみの心は深まり、ついには知的障がい者の雇用を生み出す特例子会社「ファンケルスマイル」を設立するに至ります。特例子会社とは、障がい者の雇用促進を目的として、親会社が特別な配慮を行って運営する法人のことです。
驚くべきことに、このファンケルスマイルは設立2年目で黒字化を達成しました。池森氏は、社員たちが封筒詰めなどの作業で見せる驚異的な集中力に、人間が持つ無限の可能性を見出したのでしょう。また、2003年にはドキュメンタリー映画を制作し、重度障がい者の母親たちが注ぐ深い愛情を世に伝える活動も行いました。こうした活動の根底には、形だけの支援ではなく、魂の通った交流を重んじる池森氏の哲学が息づいています。
SNS上では「経営の神様のような人が、これほどまでに社会貢献に私財を投じていることに感銘を受けた」といった反響や、「80歳を超えてなおワクワクしている姿が理想の生き方だ」という称賛の声が数多く寄せられています。私自身も、ビジネスの成功をゴールとせず、得た果実を次世代や社会へ還元しようとする池森氏の姿勢こそ、現代のリーダーが範とすべき真の「世直し」であると確信しています。
若き才能に投資する、池森氏の「第3の人生」
2016年に発足した「池森奨学財団」も、彼の情熱の形の一つです。自身が経済的な理由で高校進学を断念し、通信教育で資格を得た苦い経験があるからこそ、学びたい若者を支える決意は固いのでしょう。さらに、2018年には「池森ベンチャーサポート合同会社」を立ち上げ、起業家支援にも本格的に乗り出しました。投資の基準は非常にシンプルで、「実現したらワクワクするかどうか」という一点に集約されています。
現在、すでに12社への出資が決まっており、その内容は多岐にわたります。VR(仮想現実)技術を用いて不安障害を治療するソフトウェアの開発や、アパレル業界の深刻な課題である廃棄問題の解決を目指すプラットフォームなど、社会課題を解決しようとする挑戦者たちに光を当てています。池森氏自身も、食品リサイクル事業などでは経営に深く参画する意向を示しており、そのバイタリティには驚かされるばかりです。
かつて65歳で一度引退し、75歳で現場復帰を果たした池森氏ですが、今後はファンケルの未来を社員とキリンホールディングスに託すといいます。長年連れ添った会社を離れることに、一抹の寂しさはあるかもしれません。しかし、それ以上に「次のステージ」への期待が彼を突き動かしています。95歳まで現役でいたいと笑う池森氏の挑戦は、まだ始まったばかりなのです。
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