日本の空の勢力図が、今まさに大きく塗り替えられようとしています。2019年11月13日現在、日本発着の国際線において、中国路線の存在感がかつてないほど高まっているのです。2019年の冬ダイヤでは、中国路線が夏に比べて19%も増加しました。一方で日韓関係の冷え込みから大幅な減便となった韓国路線を抜き、ついに中国が首位に躍り出た形となります。
この状況に対し、SNS上でも「最近、成田空港で中国の飛行機をよく見かける」「LCCのおかげで中国旅行が驚くほど安くなった」といった驚きや喜びの声が多く寄せられています。旺盛なインバウンド需要を見込み、中国の航空会社が成田空港や関西国際空港での発着便を急ピッチで増やしていることが、この背景にあると言えるでしょう。
インバウンド需要と航空業界のダイナミズム
国内の交通機関もこの波に乗ろうと必死です。例えば京成電鉄は2019年9月に、成田空港と東京都心部を結ぶ「スカイライナー」の販売カウンターへ、いち早く中国の電子決済サービスを導入しました。2019年9月までの時点で、中国からの訪日客数は前年同期比15%増の約740万人という驚異的なペースで伸びており、彼らを確実に取り込むための戦略です。
国土交通省の発表によりますと、2019年10月27日から2020年3月28日までの冬ダイヤにおいて、日中を結ぶ定期便は週1406便に達しました。これは夏ダイヤから224便もの増加であり、日本の国際線のうち実に27%を中国路線が占める計算です。つまり、日本の空港を離着陸する国際線の4機に1機は、中国との間を行き来している状態と言えます。
対照的なのが韓国路線です。日韓関係の悪化が深刻な影響を及ぼし、夏に比べて501便減の778便へと急減してしまいました。韓国第2位のアシアナ航空が2019年11月12日に買収される見通しとなるなど、韓国航空業界の苦境が浮き彫りになっています。同社傘下の格安航空会社であるエアソウルも、日本便を大幅に削減せざるを得ない事態に追い込まれました。
中国航空会社の強みと立ちはだかる脅威
ここで注目すべきは、航空自由化(オープンスカイ)と呼ばれる協定の影響です。これは国同士の取り決めにより、航空会社が路線や便数を自由に決定できるようにする制度を指します。発着枠に余裕のある成田空港などは、この協定に基づき原則として増便を受け入れています。この機を逃すまいと積極的な姿勢を見せているのが、中国の航空会社なのです。
中国最大の規模を誇る中国南方航空が増便に踏み切ったほか、中堅の厦門航空が福建省の福州から成田へ新規就航を果たしました。LCC(ローコストキャリア)と呼ばれる、徹底的なコスト削減によって低価格な運賃を実現した格安航空会社をはじめ、中国の中堅航空会社が地方都市の旅行需要を力強く掘り起こしている状況が見て取れます。
中国勢の強さの秘密は、圧倒的な規模を誇る国内線にあります。巨大市場からの収益が、彼らの国際線進出を強力に後押ししているのです。大手の拠点空港が国策によって北京、上海、広州へと分散され、中堅航空会社も独自の地方路線を持つことで、無駄な競合を避けて安定した利益を生み出す仕組みが完成しています。
さらに脅威なのは、彼らが価格だけでなくサービスの質も劇的に向上させている点です。世界の航空会社を格付けする英国のスカイトラックス社の調査では、海南航空が7位、中国南方航空が14位と健闘しています。これは3位の全日本空輸(ANA)や11位の日本航空(JAL)といった日系大手と比べても、決して見劣りしない素晴らしい評価だと言えるでしょう。
日系航空会社の苦戦とこれからの指針
一方で、日系航空会社は防戦一方の苦しい立場に立たされています。日本航空の2019年7月から9月期における中国路線の「有償旅客キロ」は、前年同期比で2.3%減少しました。有償旅客キロとは、実際にお金を払って搭乗した乗客数に飛行距離を掛け合わせた、航空路線の実質的な需要と収益力を示す重要な専門指標です。
これまで地方都市から上海などを経由して日本を訪れていた顧客が、中国系航空会社の直行便に奪われているのが実態です。全日本空輸も中国路線の機材を小型化して供給量を絞っており、2019年4月から9月期の旅客数は前年同期比7%減となりました。今後の冬ダイヤ期間も、競争激化により訪日客の獲得は厳しい戦いになると予想されています。
私個人の意見としては、この状況は日系航空会社にとって深刻な危機であると同時に、大きな転換期でもあると考えます。全日本空輸で14%、日本航空で11%もの国際線旅客収入を占める中国路線は、欧米路線に次ぐ重要な収益の柱です。単なる価格競争に巻き込まれるのではなく、日本ならではの繊細な「おもてなし」や高い安全性という付加価値を、どうアピールするかが問われています。
中国勢の圧倒的な資本力と価格競争力に、正面からコストで対抗するのは限界があるでしょう。日系航空会社は今こそ戦略を根本から練り直し、プレミアムな旅の体験を提供するブランドとしての地位を確立すべきです。日本の空をめぐる覇権争いは、これからさらに熾烈さを増していくに違いありません。
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