高画質を極めた4K8K放送が幕を開けてから、2019年12月01日でちょうど1年という節目を迎えました。映像産業全体の底上げを期待されるこの新技術ですが、現状では視聴環境の整備や認知度の向上において、いまだ多くの壁にぶつかっています。普及を加速させるためには、技術の誇示だけでなく、視聴者の心を揺さぶるコンテンツの充実が不可欠でしょう。
ここで専門的な用語を整理しておくと、4Kとは映像を形作る画素の数がハイビジョンの4倍、8Kでは実に16倍に達する規格を指します。画素とは画面を構成する最小単位の点であり、この数が多いほど、まるでその場にいるかのような臨場感あふれる映像表現が可能になるのです。この技術が浸透すれば、日本の放送機器産業や制作現場の国際競争力は飛躍的に高まると期待されています。
しかし、普及の足取りは決して軽いものではありません。2019年10月31日時点での対応テレビ普及台数は約218万台にとどまり、世帯普及率に換算するとわずか4%程度という厳しい現実があります。業界団体の7月の調査でも、実際に放送を視聴した経験がある人は同じく4%という結果が出ており、次世代放送の魅力が国民の間に浸透しきっていない様子が浮き彫りになりました。
民放各社の苦悩と「テレビ放送離れ」への危機感
普及を阻む最大の要因は、圧倒的な「キラーコンテンツ」の不足に他なりません。現在、民放各社の多くは従来のハイビジョン番組を4K画質に変換して流す「アップコンバート」に近い運用が中心です。視聴者が少ないために広告収入が見込めず、多額の制作費を投じた4K専用番組を作れないという、負のループに陥っているのが実情ではないでしょうか。
その一方で、米ネットフリックスなどの動画配信サービスは、莫大な資本を背景に高品質な4K作品を次々と投入しています。ネット環境さえあれば手軽に超高画質を楽しめる時代において、受動的なテレビ放送が選ばれ続ける保証はどこにもありません。若年層を中心とした「テレビ離れ」が加速する中で、放送波というインフラの優位性を再定義する時期に来ています。
SNS上では「まだテレビを買い替える理由が見当たらない」といった冷静な声がある一方で、「スポーツ中継の迫力は別格」という期待の声も散見されます。NHKが8K放送をリードし、民放がそれを追う形となっていますが、公共放送の肥大化を抑制しつつ民放が健全な収益基盤を築くためにも、独自の魅力を持つ番組制作への投資が急務だと言えるでしょう。
2020年に開催を控える東京五輪・パラリンピックは、この停滞感を打破する最大のチャンスです。国民が熱狂する大舞台で、髪の毛一本や飛び散る汗まで再現する圧倒的な映像美を届けることができれば、4K放送の価値は一気に認められるはずです。ただ綺麗なだけではない、人々の記憶に刻まれる「感動の体験」をメディアが一丸となって提供すべきです。
コメント