2019年10月に日本列島を襲った台風19号は、私たちの記憶に新しい甚大な被害をもたらしました。今なお不自由な避難生活を余儀なくされている方々に、心からのお見舞いを申し上げます。報道では都市部の被害が目立ちますが、実は東日本の山間部でも、生活道路や登山道がズタズタに寸断されるという深刻な事態に陥っているのです。
この影響で、山を走る「トレイルランニング」をはじめとする多くのアウトドアイベントが中止を余儀なくされました。プロトレイルランナーの鏑木毅氏がプロデュースする群馬県神流町の大会も、11年目にして初めての中止を決定しています。2019年12月04日現在、現地調査の結果は惨憺たるもので、翌年以降の開催すら危ぶまれる状況が続いています。
SNS上では、大会中止を惜しむ声とともに「自分たちにできる復興支援はないか」というランナーたちの熱い書き込みが相次いでいます。トレイルランニングとは、舗装されていない登山道や林道を走るスポーツのことです。単なる競技に留まらず、ランナーが道の手入れや清掃を行うことで、荒廃した山々を守る「守り手」としての役割も期待されているのでしょう。
日本は国土の約70%を森林が占める、世界でも稀に見る「森林大国」です。しかし、林業の衰退によって管理が行き届かなくなった山道は、今や廃道と化しつつあります。一方でアウトドア文化が根付く欧州では、森林をスポーツや合宿の場として有効活用し、地域経済を活性化させる仕組みが確立されています。日本もこのモデルに学ぶべき点が多いはずです。
「スポーツ権」の確立と地域振興への挑戦
現状では、行政手続きや自然保護団体との調整に多大な労力を要することが、アウトドアスポーツ普及の壁となっています。しかし、ユネスコ憲章ではスポーツを楽しむことは「基本的人権」の一つ、すなわち「スポーツ権」として認められています。2020年の東京五輪を目前に控え、日本でも国レベルでの環境整備が急務であると言わざるを得ません。
近年は、アウトドアスポーツを職業にしたいと願う若者も増えてきました。彼らが夢を持って働ける土壌を作ることは、過疎化に悩む山村の振興に直結するはずです。大会開催に合わせて登山道を整備し、地域に活力を注ぎ込むという「社会的な好循環」は、災害からの復興を目指す日本にとって、まさに一筋の希望の光になるのではないでしょうか。
私自身、スポーツの持つ力は単なる健康増進に留まらないと信じています。荒れた山を人の手で世に送り出し、そこに交流が生まれることで、自然と人間が共生する新しい形が見えてくるはずです。未曾有の災害を経験した今だからこそ、森林活用とスポーツの融合という、この国の新しい可能性を官民一体となって押し進めていきたいものです。
コメント