芸術の都として知られるフランスのパリですが、その魅力はルーブル美術館の中だけに留まりません。2019年12月01日に紹介された書籍『ストリートアートで楽しむパリ』は、街そのものをキャンバスに見立てた、新しい観光の形を提案しています。著者はストリートアートに精通したブロガーのステファニー・ロンバール氏と、ジャーナリストのシモン・オアロー氏です。
本書は、パリ市内から郊外に至るまでの9つのエリアを厳選し、詳細な地図と共に作品を紹介する贅沢な一冊となっています。SNSでは「パリの裏側を知ることができる」「次の旅行で絶対に持ち歩きたい」といった期待の声が続々と上がっており、感度の高い旅行者の間で大きな反響を呼んでいます。単なるガイドブックを超えた、文化的な深みを感じさせる構成が人気の秘密でしょう。
特筆すべきは、世界的に有名な正体不明のアーティスト、バンクシーが自らの手によるものだと認めた6つの作品が全て掲載されている点です。ストリートアート、いわゆる「グラフィティ(壁への落書きから発展した描画様式)」は、公共の場所に描かれるため、その多くは一時的な存在に過ぎません。それらを記録した本書は、まさに現代芸術のアーカイブとしての価値も備えていると言えるでしょう。
行政と住民が手を取り合う「芸術の都」の懐の深さ
パリの壁を彩る作品の多くは、実は非常に計画的に制作されています。画廊がリーダーシップを取り、区長や不動産業者と交渉を重ねた上で、住民たちの同意を得てから描かれるというプロセスは驚きです。単なる「落書き」を排除するのではなく、地域社会が一体となってアートを育む土壌があるからこそ、ビルの壁面を埋め尽くすほどの巨大な名作が誕生するのでしょう。
こうした文化的な包容力は、次世代の育成にも注がれています。子供たちがグラフィティの技法を本格的に学べる教室が用意されているほか、アーティストの活動拠点であるアトリエで誕生日パーティーを開けるユニークなプログラムも存在します。路上の表現者に対しても深い敬意を払うパリの姿勢には、自由と芸術を愛するフランスの精神が色濃く反映されていると感じます。
私自身の視点としても、日本におけるストリートアートの扱われ方とは一線を画すこの成熟した環境には、羨ましささえ覚えます。表現の自由と都市の景観を対立させるのではなく、共存させる知恵こそが、パリを永遠の「芸術の都」たらしめているのではないでしょうか。2300円(税別)という価格で、パリの息遣いを自宅で感じられる一冊として、ぜひ手に取っていただきたい名著です。
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