世界を股にかけて活躍するインテリアデザイナー、片山正通さんをご存知でしょうか。2019年12月08日現在、53歳を迎えた彼がたどり着いたのは、自らのファッションを「黒」という色、そして「コム・デ・ギャルソン」というブランドに絞り込むという極めてストイックなスタイルでした。
かつては流行の波に乗りながら服を選んでいたという片山さんですが、3年ほど前からこのテーマを掲げ始めました。年齢による体形の変化をカバーするという実用的な側面もありつつ、この決断が彼に驚くべき変化をもたらしたのです。SNS上では「一流のクリエイターほど私服を制服化する」という現象に納得する声が多く寄せられています。
選択肢を絞ることで見えてくる無限のバリエーション
色を限定すると選択肢が狭まると思われがちですが、片山さんの見解は正反対です。黒という色に一点集中した途端、素材の質感やシルエットのわずかな違いが鮮明に浮き上がってくるといいます。デニムからサルエルパンツまで、気づけば30本を超える黒のパンツが彼のコレクションに加わりました。
「コンセプトを絞ることで、むしろ自由になれる」という彼の言葉は、デザインの本質を突いています。これは私たちの日常生活にも応用できる知恵ではないでしょうか。情報の海に溺れがちな現代において、あえて「枠」を作ることは、細部への洞察力を養い、個性を研ぎ澄ますための最高の手法だといえるでしょう。
ユニクロ旗艦店に宿る「引き算」の美学
片山さんのこの思想は、彼の代表作であるユニクロの店舗デザインにも色濃く反映されています。2006年にオープンした「ソーホー ニューヨーク店」の設計時、柳井正会長から提示された条件は「デザインが目立たないこと」でした。一見、デザイナーへの否定とも取れるこの言葉を、彼は深く考察しました。
彼が導き出した答えは、主役である「洋服」を徹底的に際立たせることでした。高さ7メートルの空間に商品を整然と積み上げ、商品そのもので空間を構成したのです。自身の存在感を消そうとすればするほど、結果として彼独自の圧倒的なスケール感が立ち現れるという逆説的な成功は、世界中に大きな衝撃を与えました。
コム・デ・ギャルソンが教える「デザイナーの死」との戦い
片山さんが心から敬愛するのが、コム・デ・ギャルソンの川久保玲さんです。彼女の作る服は、時に破れていたり、常識を覆す形をしていたりと、着る側に常に緊張感を強います。片山さんは、あえてその「安心させてくれない服」を身に纏うことで、自分自身の感性が守りに入ってしまうことを防いでいるのです。
過去の成功体験をなぞるだけの「自分のコピー」は、デザイナーとしての死を意味すると彼は断言します。固定概念を破壊し続ける服を日常に取り入れることは、彼にとって一種の戦闘服なのかもしれません。武蔵野美術大学の教授として教壇に立つ際も、その尖った装いを通じて学生たちに「既成概念を疑うこと」の大切さを伝えています。
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