アフガニスタン東部で凶弾に倒れた、NGO「ペシャワール会」の現地代表・中村哲医師。2019年12月09日、静寂に包まれる中で、中村さんは住み慣れた故郷・福岡へとついに帰還しました。空路で運ばれた棺が福岡空港に降り立った瞬間、その場にいた誰もが深い喪失感に胸を締め付けられたことでしょう。
12月09日の午前10時過ぎ、中村さんの遺体を乗せた航空機が滑走路に姿を現しました。遺族と共に福岡へ戻ってきたその姿は、長年にわたり砂漠を緑に変え、人々の命を救い続けてきた英雄の帰還としては、あまりにも悲しい再会となりました。空港職員たちの手によって、慎重に棺が地上へと下ろされていきます。
空港の展望デッキには、九州に住む多くのアフガニスタン人が詰めかけました。彼らは中村さんの肖像画や、「守れなくて申し訳ない」と記された横断幕を掲げ、涙ながらに感謝と謝罪を口にしています。彼らの表情からは、中村さんが単なる医師を超え、現地の家族のような存在であったことが痛いほど伝わってきました。
福岡県福津市で暮らすムジュタバさんも、深い悲しみに暮れる一人です。彼は「感謝の気持ちでいっぱいで、悲しくて仕方がない」と語りました。SNS上でも「日本人の誇り」「彼が作った用水路は残り続ける」といった声が溢れ、国境を越えて愛されたその人徳を偲ぶ投稿が止まらない状況が続いています。
受け継がれる遺志と、真実を究明するための捜査
帰国後に行われた会見で、ペシャワール会の村上優会長は「圧倒的な喪失感」という言葉で胸中を吐露しました。しかし同時に、中村さんが命を懸けて実践してきた事業をすべて継続する強い決意も表明されています。彼が撒いた希望の種を絶やさないことが、残された者たちにできる唯一の報いなのかもしれません。
今後の予定として、中村さんの遺体は司法解剖のために県内の病院へ移送されます。これは、刑法の「国外犯規定」に基づき、日本警察が殺人容疑として捜査を行うためです。国外犯規定とは、日本国外で日本人が被害に遭った重大犯罪に対し、国内の法律を適用して捜査を行う仕組みを指します。
司法解剖によって死因や凶器の特定が進められる一方、遺体は2019年12月09日の夜にも住み慣れた自宅へと戻る見込みです。そして、2019年12月11日には福岡市内で告別式が執り行われます。これほどまでに献身的に他者のために生きた人物が、暴力によって命を奪われた事実は決して許されるものではありません。
私は、中村医師が築いた用水路が今もアフガンの大地を潤しているという事実に、微かな救いを感じます。武器ではなく鍬(くわ)を持ち、対話と労働で平和を形にした彼の哲学は、私たち現代人が学ぶべき最も尊い教訓ではないでしょうか。彼の歩みが止まっても、その精神は決して消えることはないはずです。
コメント