ドイツの自動車巨人、フォルクスワーゲン(VW)が、ついに社運を賭けた電気自動車(EV)「ID.3」の量産を開始しました。その舞台となるのは、ドイツ東部に位置する歴史あるツウィッカウ工場です。これまで長年「ゴルフ」などのガソリン車を支えてきたこの拠点は、いまや欧州最大のEV生産拠点へと劇的な変貌を遂げようとしています。
2019年11月04日に行われた量産開始式典には、メルケル首相も列席し、その注目度の高さが伺えました。VWのEV戦略を率いるトーマス・ウルブリッヒ氏は、内燃機関車からEVへの完全な転換が、自動車産業における新しい時代の幕開けになると熱く宣言しています。この挑戦は、2029年までに世界で2800万台のEVを販売するという同社の壮大な野望の第一歩なのです。
「マリアージュ」の瞬間に見るEV製造の進化
工場の内部では、最新鋭の設備が整然と稼働しています。自動車の組み立てにおいて、車台(シャシー)と車体が合体する工程は「マリアージュ(結婚)」と呼ばれます。EVの場合、エンジンが存在しないため、バッテリーとモーターが一体となったフラットなシャシーにボディーが重なる光景は、従来の車づくりとは一線を画す新鮮な驚きに満ちています。
VWはこのツウィッカウ工場に、12億ユーロ(約1440億円)という巨額の投資を行いました。約1700台ものロボットを導入することで、窓ガラスやコックピットの取り付けといった作業の自動化を促進しています。これにより、2022年にはガソリン車時代を上回る年産33万台の生産能力を確保する計画で、効率化への徹底したこだわりが感じられます。
8000人の意識を変える「eモビリティーセンター」
ハード面の刷新だけでなく、働く「人」の意識改革も徹底されています。工場敷地内の「eモビリティーセンター」では、全従業員8000人を対象とした研修が実施されています。興味深いのはその手法です。電気の歴史を学ぶために「脱出ゲーム」を取り入れたり、VR(仮想現実)ゴーグルを活用してバーチャル空間で作業手順を学んだりと、遊び心と実用性を兼ね備えた教育が行われています。
100年以上もエンジン車を作り続けてきた職人たちにとって、高電圧を扱うEV製造への転換は大きな挑戦です。しかし、VWはこれを単なる技術習得ではなく「カルチャーチェンジ」と捉えています。SNSでも「老舗メーカーがここまで本気で変われるのか」と驚きの声が上がっており、伝統ある工場のプライドをかけた変革が進行しているのです。
世界へと広がるEV製造の「青写真」
VWは2019年11月15日、今後5年間でEV分野に330億ユーロを投じる計画を発表しました。ツウィッカウ工場は、今後中国やアメリカで展開されるEV工場の「青写真(モデルケース)」となります。ここで培われる専用車台「MEB」の生産ノウハウが、世界中の拠点へと波及していくことになるでしょう。
個人的な見解として、今回のVWの動きは単なる新車発表以上の意味を持ちます。巨大組織が既存の成功体験を捨て、ゼロからEVへ舵を切る決断は、他メーカーにとっても強烈な刺激となるはずです。2020年06月には「ゴルフ」の生産も終了し、2021年には完全にEV専用工場へと生まれ変わるツウィッカウ。この地から、世界の道路の風景が劇的に変わっていく予感がしてなりません。
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