アメリカの金融政策を司るFRB(連邦準備理事会)が、大きな転換点を迎えようとしています。2019年12月11日、当局は4会合ぶりに金融緩和を見送ることを決定しました。これは、これまで米中貿易摩擦などのリスクに備えて実施してきた「予防利下げ」を、一旦お休みするという明確なサインです。
予防利下げとは、景気が実際に悪化する前に、先手を打って金利を下げることで経済を支える手法を指します。パウエル議長は記者会見にて、現在の米経済の先行きを「良好」と断言しました。2020年の経済成長率は2.0%と底堅く、失業率も歴史的な低水準が続くと予測されており、ひとまずは一安心といったところでしょう。
SNS上では、この「据え置き」の判断に対して、「株価にとっては安心材料だが、バブルが怖い」という声や、「トランプ大統領のさらなる圧力が心配だ」といった反応が飛び交っています。市場は当局の慎重な姿勢を好意的に受け止める一方で、将来的な副作用への警戒も怠っていないのが現状といえます。
バブルの足音と物価停滞のジレンマ
しかし、パウエル議長の前には「二つの難題」が立ちはだかっています。一つは、ダウ平均株価が最高値を更新し続け、商業用不動産価格が2008年のリーマンショック前を大きく上回っているという現実です。低金利を長く続けることは、過剰な投資を招き、資産バブルを膨らませてしまう危険性を孕んでいます。
もう一つの悩みは、物価上昇率が目標の2%に届かない「物価停滞」です。経済が好調であるにもかかわらず、インフレが進まないのは不思議な現象ですが、これが理由でFRBは利上げにも踏み切れません。つまり、景気過熱を抑えるための武器も使いにくい、非常にデリケートなバランスの上に立たされているのです。
私は、このFRBの判断は極めて冷静かつ妥当なものだと考えます。過度な緩和は将来の危機を招きますが、拙速な利上げは製造業の首を絞めかねません。今のパウエル議長に必要なのは、市場の熱狂に流されず、事実に基づいたデータを淡々と積み上げていく不動の精神ではないでしょうか。
2020年大統領選という巨大な政治リスク
さらに、2020年にはアメリカ大統領選挙という最大の政治イベントが控えています。再選を目指すトランプ大統領は、ドル高が製造業に悪影響を与えているとして、FRBに対して執拗に追加利下げを迫り続けています。政治の圧力を受けながら中立性を保つのは、並大抵の苦労ではありません。
本来、中央銀行は政治から独立しているべき存在ですが、選挙イヤーは現職に有利な政策を打つのではないかと疑われやすい時期でもあります。パウエル議長は、経済の安定だけでなく、FRBという組織の信頼を守るための戦いも強いられることになるでしょう。
2019年12月13日現在、製造業の景況感は依然として「不況」の域を脱していません。中西部の雇用にも陰りが見える中、FRBがどのようにして舵を取っていくのか、世界中が固唾を呑んで見守っています。パウエル氏の「静かなる決断」が、来年の世界経済を左右する鍵となるのは間違いありません。
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