今、世界中の投資家や環境保護団体が熱い視線を注いでいるのは、バイオプラスチックだけではありません。石油を原料とする従来の化学繊維を過去のものにするかもしれない、驚異の新素材「人工タンパク質繊維」が大きなうねりを見せています。この分野ではスタートアップ企業が主役となっており、日本の「スパイバー」や米国の「ボルト・スレッズ」といった企業が、まさに素材の歴史を塗り替えようとしているのです。
象徴的な出来事として、2019年12月中旬、ゴールドウイン社がスパイバーと共同開発した世界初の高機能ウエアを限定発売します。これは人工タンパク質を実用化した画期的な一歩といえるでしょう。SNS上でも「ついにクモの糸のような夢の素材が服になるのか」「環境に優しくて高性能なら高くても欲しい」といった、期待に満ちた声が数多く寄せられています。
アパレル産業が直面する環境破壊の真実
なぜこれほどまでに新しい素材が求められているのでしょうか。その背景には、アパレル産業が抱える深刻な環境負荷があります。国連の調査によれば、ジーンズ1本を作るだけで、一人の人間が7年間に飲む量に相当する約7.5立方メートルもの水が消費されています。さらに、洗濯の際などに流出する微細なプラスチック粒子「マイクロファイバー」は、海洋汚染の大きな原因として問題視されているのです。
2000年からの15年間で、ファストファッションの普及により衣服の生産量は2倍に膨れ上がりました。これに伴い、排出される温室効果ガスは年間12億トンにも達しており、気候変動への対策は待ったなしの状態です。私は、このままの消費構造を続けることは不可能だと考えます。だからこそ、化石資源に頼らず、微生物の発酵プロセスによって生み出される人工タンパク質が、救世主として期待されるのは当然の帰結なのです。
ゲノム編集が解き放つ無限の可能性
人工タンパク質の真の凄みは、その「設計の自由度」にあります。ここで鍵となるのが、生物の設計図を書き換える「ゲノム編集」という技術です。これは遺伝子を狙い通りに操作する手法で、アミノ酸の配列を自在にデザインすることを可能にします。これにより、用途に合わせて「熱に強い」「伸縮性に優れる」「自然に分解される」といった特性を、まるでプログラミングするように素材に付与できるのです。
この技術革新は、ファッションの枠を大きく飛び越えるでしょう。スパイバー社はすでに、自動車のボディーやシートのクッション材、さらには建築資材への応用も視野に入れています。従来の素材生産は高温・高圧な環境を必要としましたが、バイオの力を使えば常温・常圧での生産が可能になります。これは、製造コストやエネルギー効率の面でも革命的な変化をもたらすと確信しています。
2019年12月13日現在、私たちはまさに「バイオマテリアル革命」の入り口に立っています。人工タンパク質が普及すれば、私たちの消費行動そのものが、地球を再生するプロセスの一部に変わるかもしれません。未だ開発途上の部分はありますが、この夢の素材が社会のスタンダードになる日は、そう遠くない将来に訪れるはずです。
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