スポーツアパレルの雄であるゴールドウインが、自然界の驚異をテクノロジーで再現する壮大な挑戦に成功しました。2019年11月21日、同社は微生物の力を借りて生成した「人工たんぱく質」による、世界初のアウトドア用繊維の開発を成し遂げたと発表しています。
この新素材は、石油由来の化学繊維に匹敵する機能性を持ちながら、環境への負荷を劇的に抑えられる可能性を秘めています。SNSでは「ついに未来の服がやってきた」「環境への優しさと高機能の両立が楽しみ」といった、期待に満ちた声が次々と上がっています。
クモの糸の弱点を克服した独自の遺伝子デザイン
プロジェクトが始動したのは、慶應義塾大学発のスタートアップ企業「スパイバー」に30億円の出資を行った2015年のことでした。当初は、強靭な「クモの糸」を模倣した繊維を目指しましたが、思わぬ壁が立ちはだかりました。それが「水による収縮」という課題です。
過酷な自然環境で使用されるアウトドアウェアにとって、雨や雪で縮んでしまう性質は致命的な欠点となります。そこでチームは、原因となるアミノ酸の配列を特定しました。アミノ酸とは、たんぱく質を構成する最小のユニットであり、この並び順が素材の性格を決定づけます。
研究陣は、水に濡れると縮む原因となる特定の配列を取り除き、理想的な耐久性を持つ独自の配列をゼロから設計しました。いわば「アウトドア専用の遺伝子」をデザインしたのです。このイノベーションにより、水による収縮を初期段階から9割も削減することに成功しました。
15万円の限定ジャケットが示す「ムーンショット」の意志
2019年12月には、この新素材を用いたジャケットが50着限定、税別15万円で発売されます。カラーは素材本来の輝きを活かした「ムーンゴールド」のみ。これは、人類の月着陸のような困難な挑戦を意味する「ムーンショット」という言葉に由来しています。
かつて、合成繊維の登場が衣服の歴史を塗り替えたように、今回の人工たんぱく質繊維は第2の革命となるはずです。現在は高価な限定品ですが、量産化が進めば、私たちが普段手にするフリースや肌着のあり方も根本から変わっていくことが予想されるでしょう。
編集者の視点から見ても、今回の成果は単なる「新商品の発売」以上の価値があります。石油資源に依存せず、微生物を巨大なタンクで「培養」して服を作る仕組みは、究極のサステナビリティの形です。これこそ、現代社会が求めていた真のイノベーションではないでしょうか。
ゴールドウインは「GREEN IS GOOD」という理念を掲げ、2017年には最先端の研究拠点「テックラボ」を設立するなど、環境への投資を惜しみません。エシカルな消費が加速する中で、日本の技術が世界のスタンダードを塗り替える瞬間を、私たちは目撃しているのです。
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