日本発の技術で世界を根底から変えるようなイノベーションを起こしたい、という政府の熱意は伝わってきます。しかし、2019年11月21日に本格始動する大型研究プロジェクト「ムーンショット」計画には、期待と同時に拭いきれない不安が漂っているのが現状です。
この計画は、2050年頃の実現を見据え、5年間で総額1000億円もの巨費を投じる壮大な試みとなっています。掲げられたテーマは「サイボーグ技術」や「人工冬眠」、「汎用量子コンピューター網」といった、まるでSF映画のような25の候補に及びます。
そもそも「ムーンショット」とは、1960年代にアメリカが人類初の月着陸を成し遂げたアポロ計画に由来する言葉です。実現は極めて困難ながらも、もし成功すれば社会に劇的な変化をもたらす、野心的な挑戦を意味しています。
SNS上では「日本からもついに夢のある計画が出るのか」と期待する声がある一方で、「1000億円ではアポロ計画に比べて予算が少なすぎる」「また税金のバラマキに終わるのではないか」といった厳しい意見も目立っています。
総花的な計画を脱し、解決すべき課題の明確化を
現在の計画案を眺めてみると、目指すべき未来像が多岐にわたりすぎており、少しばかり「大言壮語」の感は否めません。12月までに選定されるテーマを絞り込まなければ、貴重な研究費を広く薄く配分するだけの結果になりかねないでしょう。
イノベーションの真の源泉は、社会が直面している切実な課題にこそ存在します。30年後の日本を想像したとき、人口減少やエネルギー自給、地球温暖化といった克服すべき高い壁が、私たちの前にはいくつも立ちはだかっています。
私たちは科学技術の力を使って、一体何を一番に解決したいのでしょうか。インパクトばかりを追い求めて、実現可能性やリスク管理が二の次になってしまっては、本末転倒という他ありません。
私は、選考過程をより透明化すべきだと考えます。候補となった研究者が、成功への具体的な道筋を公の場でプレゼンテーションし、国民が納得できる形でテーマを厳選するプロセスこそが、この計画には不可欠ではないでしょうか。
過去の失敗に学び、真の「実」を取る戦略を
プロジェクトの成功には、大学や公的機関だけでなく、民間企業の知見も欠かせません。実用化の兆しが見えた段階で速やかに産業界を巻き込み、国際的な優秀な頭脳を呼び込む柔軟な姿勢が求められます。
かつてこの計画の前身とされた「ImPACT(革新的研究開発推進プログラム)」は、個々のテーマが小粒で、社会を変えるような大きな成果を残せませんでした。今回のムーンショットが、単なる看板の掛け替えであってはなりません。
政府には、奇をてらったアイデアに惑わされることなく、確実に社会に還元される「実」を追求する戦略を期待します。2019年11月21日のいま、未来への投資が失敗に終わらないよう、厳しい視点で見守る必要があります。
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