2019年12月15日、ある一人の女性の挑戦が大きな注目を集めています。埼玉県内のケーブルテレビ会社に勤務する村田里依さん(49歳)は、乳がんという困難に直面しながらも、自らが旗振り役となって職場の労働環境を劇的に改善させました。彼女の歩みは、病を抱える当事者だけでなく、すべての人にとって「働くことの意味」を問い直すきっかけとなっています。
村田さんが2014年に最初のがんを経験した際、支えとなったのは当時の職場の同僚たちでした。彼らは仕事を代行し、体調を気遣った食事の場を用意するなど、温かい絆で彼女を支えたのです。「社会と繋がり続けることが治療の活力になる」と確信した村田さんでしたが、転職先の環境は想像以上に厳しいものでした。就業規則は2001年から更新されず、制度の未整備が放置されていたのです。
「甘やかし」という壁を越えて
新しい職場での改革は、決して平坦な道ではありませんでした。村田さんが休暇制度の充実を訴えても、当時の上司は「社員を甘やかすな」と一蹴し、利益に直結する仕事を優先するよう求めたといいます。しかし、村田さんは諦めませんでした。同僚の関田美奈子さんらと共に外部の講座で「働き方改革」の最前線を学び、社内報を通じて「長く働ける環境こそが地域密着企業には不可欠である」と発信し続けました。
こうした熱意は、徐々に経営陣や周囲の意識を変えていきました。外部役員からの後押しもあり、入社からわずか4カ月後には休暇制度が整備されるに至ります。さらに、それまで例のなかった「出産後の復職者」が誕生するなど、社内に新しい風が吹き始めました。当初は厳しい態度だった上司からも「君の目指すものがようやく理解できた」と歩み寄りの言葉があったそうです。
ステージ4の宣告と、社会が直面する課題
現在、会社は倉庫を改装した休憩室の設置やテレワークの導入など、重病を抱える社員を支える体制をさらに強化しています。しかし、村田さん自身の病状は2019年8月に「ステージ4」への進行が判明し、激しい副作用を伴う治療が続いています。「ステージ」とはがんの進行度を示す言葉で、数字が大きいほど進行しており、4は他の臓器への転移が見られる状態を指します。
過酷な状況にあっても村田さんが笑顔を失わないのは、家族を思いやりながら最期まで気高く生きた亡き父の姿があるからです。「自分らしく生き抜くために、働くことが重要」と語る彼女の言葉には、魂の叫びが宿っています。SNS上でも「制度がないなら作るという姿勢に勇気をもらった」「病気になっても居場所がある社会になってほしい」と、多くの共感と応援の声が寄せられています。
2016年のがん対策基本法改正により、企業には患者の雇用継続に配慮する努力義務が課されました。しかし、いまだに3割以上の人が「がんになったら離職せざるを得ない」と考えているのが現実です。村田さんのような当事者の声が、制度という形骸化した枠組みに血を通わせ、誰もが安心して働ける未来を切り拓く原動力になることを、私は切に願ってやみません。
コメント